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7月12日血液に流れる乳がん細胞を利用し尽くす(7月11日号Science誌掲載論文)

2014年7月12日
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最近乳がんのことで相談されることが多く、気になって論文を他の分野より詳しく読むことが多くなった。そして実感するのは、研究が急速に進展していることだ。何年か前、友人で細胞学者のNさんから奥さんの乳がん転移がみつかり、どう対応すべきか相談されたことがある。東京新橋の地下にあるワインバーだったが、当時は全く知識を持ち合わせず根拠のない励ましの言葉をつぶやくのが関の山だった。しかし今なら知識はある。お金はかかるが、日本がだめならアメリカだってある。もっと具体的なアドバイスが出来る様な気がする。特に今注目しているのがCTC(循環腫瘍細胞)だ。5月18日初診時の乳がん患者さんの血中にすでにがん細胞が流れており、それを定量的に数えることが出来ることを紹介した。さらに6月15日、肺小細胞性未分化ガンを抹消血から取り出して、マウスの中で増やす技術についても紹介した。抹消血から完全ながん細胞が分離できることは恐ろしいことだが、裏を返せば戦う相手を捕まえて調べることが出来ることを意味する。今日紹介するマサチューセッツ総合病院・ハーバード大学の論文は抹消血から乳がんを回収して、試験管内で増殖させる方法の開発を目指した研究だ。研究には抹消血中にがん細胞が流れていることが確認されている転移乳がんの患者さんが選ばれている。がん細胞はこのグループが独自で開発したミクロ流体工学デバイスを用いている。この方法は製品化されてはいないが、前回紹介したCTC採取法と比べるとコストは安そうだ。研究のハイライトはこのがん細胞の培養法を開発したことだ。3次元培養法でほぼ無限に培養できるが、樹立できる確率は36例中6例だった。一旦培養が出来ると、試験管内の薬剤感受性検定など様々なテストに使うことが出来る。また、マウスの中でも増やすことが出来るようだ。成功率はまだ2割を切っているが、必ず培養法は改善される。マウスであれば、正常乳腺上皮や腸管の幹細胞を1個から増やすことが出来る。おそらく、培養に用いるサイトカインとともに、幹細胞を見つけて、あるいは幹細胞へと戻してから培養する方法などが開発され、近い将来転移がんであれば末梢血から取り出して、薬が効くかどうかを調べることが出来るようになるはずだ。我が国の現状から見てうらやましいと思ったのはマサチューセッツ総合病院ではルーチンに25遺伝子、100種類の突然変異についてテストが終わっていることだ。この程度のことは日本でも出来るようにするのが重要だろう。抹消血から腫瘍が培養できると、更に詳しい検査が可能になる。1000種類の突然変異を補足して次世代シークエンサーで配列を決める方法を用いて転移性を獲得する過程で起こって来た突然変異について詳しく調べている。専門的になるのでこの説明は省くが、この結果に基づいて様々な薬剤をテストし、新しい転移がんの治療法が見つからないか調べている。その結果、試験管内での転移がん細胞の性質から考えられる3−4種類の新しい薬剤を提案することが出来ている。もちろんこのお薬を患者さんに使ったのかどうかはわからない。しかし自分のガンを知って戦うことが間違いなく可能になっていることを実感する。これからは友人に聞かれてもエビデンスに基づいて励ますことが出来ると思うが、我が国でも最新のエビデンスに基づいてがんと戦える日が来るよう支援したい。
カテゴリ:論文ウォッチ
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