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承認を受けた新規の稀少難病治療薬

2014年7月17日
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 厚生労働省は7月4日、新規有効成分の医療用医薬品やワクチンなどについて新薬22製品32品目に一斉の製造販売承認をしました。これらの製品に「難治性130疾患」(難治性疾患克服研究事業対象130疾患)に含まれる希少難病のゴーシェ病と骨髄繊維症の治療薬2品目が含まれています。承認申請資料や添付文書は未公開で、薬価も未収載ですが、概要を記します。

(1)  「ブプリブ(Vpriv)」  velaglucerase alfa( 遺伝子組み換え) [シャイア・ジャパン社]

 ゴーシェ病は、ライソゾーム病の一種で、グルコセレブロシダーゼ欠損のより肝臓、脾臓、骨髄、神経にグルコセレブロシドという脂質が蓄積する遺伝性疾患で、国内推定患者数は100人未満とされていて、次の3種があります。

 Ⅰ型(成人型)は、慢性非神経型で、肝臓、脾臓が腫れ、貧血が幼児期~青年期に発症します。骨がもろくなり、痛みや骨折しやすくなります。

 Ⅱ型(乳児型)は、急性神経型で、肝臓、脾臓の腫れに加えて乳児期より痙攣などの神経症状が急激に進行します。  Ⅲ型(若年型)は、慢性神経型で、肝臓、脾臓の腫れに加えて神経症状を伴いますが、Ⅱ型より発病が遅く程度や進行も緩やかです。

 治療法として、酵素補充療法または骨髄移植があり、ともに肝臓、脾臓の腫れや貧血には良い効果が見られますが、神経症状への効果は乏しいとされています。

 「ビプリブ」は、酵素補充療法に用いるゴーシェ病治療薬で、ヒト細胞から製造され、天然の酵素と同じアミノ酸配列を有します。「ゴーシェ病の諸症状(貧血、血小板減少症、肝脾腫及び骨症状)の改善」に効能・効果示し、2010年2月に初めて米国で承認され、世界40カ国以上で販売されています。

 (2)  「ジャカビ(Jakavi)錠」 ruxolitinib phosphate  [ノバルティス ファーマ社]

 骨髄線維症は、骨髄の広い範囲に繊維化がみられる疾患で、原発性と二次性に分けられます。原発性骨髄線維症とは、造血幹細胞の腫瘍性増殖により、骨髄の広汎な線維化と脾腫を伴う疾患で、骨髄増殖性腫瘍のひとつに位置づけられています。二次性骨髄線維症は、他の疾患に伴っておこる骨髄の線維化で、造血系腫瘍(白血病や悪性リンパ腫など)や結核などの炎症性疾患、膠原病および骨疾患などでみられます。

 原因は、造血幹細胞に遺伝子変異が生じ、その結果血液細胞が増殖することがと考えられて、約50%の患者さんでは、JAK2という遺伝子に異常が生じています。骨髄の線維化の理由は、骨髄で増殖している血小板の母細胞である巨核球から線維芽細胞増殖を促す因子が産生放出されるためです。患者数は約1500人と推定されています。

 ジャカビは、骨髄線維症を効能・効果とする新有効成分含有医薬品で、希少疾病用医薬品です。造血組織である骨髄が線維化することで、正常な血液の産生が妨げられる進行性の血液がんに対し、ジャカビはJAK1やJAK2を標的として脾腫の縮小や諸症状を改善することが見込まれるチロシンキナーゼ阻害作用を有する低分子分子標的薬です。米国では、Incyte社が、Jakafiとして2011年11月に承認を得ています。

  両製品は、ドラッグ・ラグが生じることなく、速やかに承認申請、審査を経て上市されています。何れも稀少難病薬開発のインセンティブや報酬としての極端な高薬価と新薬創出加算を期待してでしょうが、国の積極的な施策に乗っての、アンメット・ニーズの稀少難病治療薬の出現と喜びたいと思います。ただ、両商品共に外資系企業の手になるもので、これら多額の健康保険からの資金が国外に流出することになります。なお、シャイア社は、アブビー製薬(アボット社の製薬部門の分離会社)に買収されることが決まったそうで、結局これら両社共に米・欧のメガ・ファーマとなりますので、国内企業も取り残されずに難病治療分野での奮起を大いに期待したいところです。

                                             (田中邦大)


		




7月17日:捏造に刑事罰を?(7月号British Medical Journal記事)

2014年7月17日
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もちろん小保方問題に触発された企画ではないと思うが、7月号のBritish Medical Journalに論文捏造に刑事罰を科すべきかどうかについて識者の賛成と反対の意見が出ていた。賛成意見を述べているのはトロント小児病院のBhuttaさん、反対意見はオタゴ大学内科のCraneさんだ。是非紹介したいと思ったのは何よりも両方の意見がこれまでの捏造についての包括的知識に基づいて述べられている点で、決して一つの事件を巡って議論が行われているわけではない点だ。どうしたら知識が得られるのか?実際には捏造に関して多くの論文やレポートが出ている。誰でも手にすることが出来るはずで、我が国でこの問題を真剣に議論しようと考えている皆さんはこの記事に引用されている文献に目を通して欲しい。とはいえ、かく言う私もこの問題が起こるまでは捏造問題を考えたことはなかった。ただ今回の問題を考える意味で、最近になって例えば優秀(に見える?)若者が主役になった点ではよく類似している大阪大学医学部での捏造事件の資料を集めたりし始めた所に、この記事を目にした。この2人の意見を読んで先ず驚いたのは、1977年まで論文撤回が一回もなかったこと、その後撤回された論文は2400に及び、大体20000編の論文の内1編は撤回されることだ。しかし2000年に入って撤回論文数はうなぎ上りで、1970年代の10倍には達しているようだ。これは撤回論文の話で、捏造になるとその数は10倍になるのではないだろうか?はっきり根拠はないが、研究者に本音の調査を行ったFanelliさんの調査では、2%の研究者がデータを加工した経験があると言っており、捏造データの数はもっと多いかもしれない。実際3月14日ここで紹介した治験論文の9割で何らかの間違いがあることを知ると、この分野の論文をどう信用していいのか途方に暮れる。しかし、電子媒体のなかった私たちの頃でも、顕微鏡像を出す時どうしてもきれいな写真を探したことは間違いがない。調査によって、捏造が日常茶飯事になっていることを理解した上で、Bhuttaさんは、捏造が患者さんや社会の大きな損失につながる以上、刑事罰を科すべきと論じる。ここで問題にされたのは、3種混合ワクチンが自閉症の原因になると言う研究や、鬱病の薬剤でGSKが副作用を隠した例を挙げている。そして、捏造を起こした人達のその後を調べると、多くは復権を果たしており、その結果捏造リスクは低いと勘違いしてしまうことを指摘している。いずれにせよ、刑事罰にすることでどのケースにも一定の基準が適応できると言うわけだ。実際、阪大のケースと、東大分生研のケースではペナルティーの重さが全く違う。この様な差は一般には受け入れ難いだろ。飲酒運転と公務員処分に関してコンセンサスを得た時の様な一律のルールを造ることが必要だと思う。一方Craneさんは、刑事罰を科するのは間違っていると論じている。理由は明確ではないのですこしまとめにくい。強いて言えば、捏造は余りにも日常茶飯事で、患者さんの命に関わる例から、ほとんど個人的な事件まで多様で、法律を造るのは不可能だとしている。そして例として、筑波大学医学部・東邦大学の麻酔科に勤務していた藤井医師が172編の論文を撤回した話に触れている。即ち、論文がないと職を失うと言うプレッシャーで、術後の吐き気の数を書き換える様な小さな捏造の刑事罰をどう定義すればいいのかと問うている。最後に捏造問題が最近急増している理由は、研究社会の格差問題であることを指摘し、この問題に私たちは真剣に取り組むべきとしている。では私はどうかだが、Craneさんの意見に賛成だ。ただ、一元的に捏造に対処することは重要だ。その意味で、英国にはUK Research Integrity Office,米国にはUS Office of Research Integrityがあるが、この様な機関を我が国も活用すべきだと思う。しかし我が国ではどの部署がこの組織に当たるのだろう?
カテゴリ:論文ウォッチ
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