今日紹介するハーバード大学からの論文はシナプス剪定メカニズムとして最近注目されてきた補体がアルツハイマー病に関わる可能性を示した研究でScienceオンラン版に掲載された。タイトルは「Complement and microglia mediate early synapse loss in Alzheimer mouse models (アルツハイマーマウスモデルでのシナプス消失は補体とミクログリアを介している)」だ。
覚えておられるかもしれないが、今年1月31日補体によるシナプス剪定がうまくいかないことで統合失調症が起こることを示したNature論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/4790)。このように発生過程では。過剰に形成されたシナプスは補体の働きにより剪定され、必要なシナプスだけが選択されることは認められるようになっていたようだ。
同じメカニズムが逆に異常なシナプス損失に寄与しているのではと着想し、マウスモデルで確かめたのがこの研究で、家族性アルツハイマー病の患者さんで見つかった突然変異型アミロイドAβを海馬で発現するマウスがモデルとして用いられている。このマウスでは生後1ヶ月ぐらいからシナプスが急速に減り始めるが、海馬を詳しく調べると、生後1ヶ月ぐらいから補体のレベルが上昇し、C1q補体因子がシナプスに濃縮していることを見つけた。あとはこれを手掛かりに、何が補体カスケードを活性化させるのか、最終的にシナプスが失われるメカニズムは何かを調べている。詳細を省いてこの研究から見えてきたシナリオだけをまとめると次のようになる。
重合によりアミロイドAβ分子がシナプスに沈殿し始めると、これが直接C1qを活性化、シナプスにC1qにより活性化された補体成分C3が沈着する。次にこれを標的にミクログリア細胞が集まり、シナプスを飲み込む。これによりシナプスが失われ、アルツハイマー病が進行するというシナリオだ。また、ノックアウトマウスや、補体に対する抗体処理を使った実験も行い、このパスウェイに補体が絡んでいることを直接証明している。全てマウスモデルの話だが、わかりやすいシンプルなシナリオだ。
もし慢性的に進むアルツハイマー病でも同じような補体依存性のシナプス喪失が見られるなら、補体や補体依存性のミクログリア反応がアルツハイマー病の治療標的として使えることを示唆している。統合失調症、アルツハイマー病と来て、次はどの病気で補体との関連が指摘されるのか、興味を持って見守っている。
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