過去記事一覧
AASJホームページ > 2016年 > 4月 > 24日

4月24日:健やかな老化の秘密に迫れるか?( Cell5月5日号掲載予定論文)

2016年4月24日
SNSシェア
   まず英単語の勉強から始めよう。
Wellderly:今日紹介するスクリップス研究所からの論文を読むまで、聞いたことも見たこともなかった単語だ。私のPCにインストールされている英辞郎(古いバージョンだが)には収載されていなかったが、ウェッブで検索するWeblio辞書には収載されていた。「健やかに歳をとった」という意味で、Wellとelderlyを合体した単語だ。
  「死ぬ日まで元気で過ごす」という願いを背負った単語だろう。しかし、簡単には叶わぬ夢だ。実際には先進国では実に90%の人が、何らかの病気が原因で亡くなる。
  最近ドイツの医学誌Deutsch Aerztblatt Internationalに掲載された100歳以上のドイツ人112人の健康状態を調べた論文では、平均5種類の病気を抱えており、視力や聴力といった命に直接関わらない疾患に加え、7割が骨粗鬆症、半分以上が心疾患、関節炎、排尿障害、4割がどこかに慢性的な痛み、認知症を抱えていることが示されている(Jopp et al, Dtsch Arztebl Int 2016; 113: 203–10 )。健やかな100歳は確かに難しい。
  とはいえ80を超えても病気ひとつしたことがないという羨ましい高齢者は存在している。そんな高齢者のゲノムを調べてその秘密に迫ろうとしたのが今日紹介するCellに掲載予定の論文で、タイトルは「Whole-Genome sequencing of healthy aging cohort (健やかな老化コホート集団の全ゲノム解析)」だ。
  この研究ではガン、糖尿病、認知症、心筋梗塞、脳卒中、腎不全のいずれにも罹患していないWellderly600人の全ゲノム解析を行い、病気の罹患でフィルターをかけていない一般集団約1500人の全ゲノムと比較している。
  対象になった羨ましいWellderlyだが、1)男性が多く、2)少しだけ喫煙経験があり、3)スポーツを心がけ、4)平均よりは痩せており、5)教育程度が高い。また今回対象に選んだ人たちの兄弟姉妹の生存率をみると、寿命自体は変化しないが、いわゆる健康寿命が上がっていることがわかる。
  余談になるが、この研究のように1000人近くのゲノムをComplete Genomics社に外注して調べているのをみると、全ゲノム解析がますます安価な検査になりつつあることがわかる。
  しかし論文を読み進むと、これだけ多くのデータを多面的に解析するための方法がまだまだ不足しているのがわかる。はっきり言って、データを十分生かせていないのではという印象だ。そのせいかどうかはわからないが、結局健やかな老化をゲノムから予想することは難しいという結論だ。事実、論文の中で「健やかな老化に貢献する特別な因子は何も見つからなかった。」と、異例の文章で締めくくっている。
   要するに、結局はゲノムだけでなく生活習慣も含む多くの要因が絡んで健やかな老化が可能になるという結論だ。
   しかしこれではあまりそっけないので、論文で記載された幾つかのデータをまとめておこう。
1) これまでアンチエージングに関連するとされていた遺伝子とは相関が認められない。
2) コラーゲン21遺伝子の多型が、少数ではあるがWellderlyのみに見られた。コラーゲンの可溶性がアルツハイマーなどの防止になっているのかもしれない
3) Wellderlyでは認知症、心疾患のリスクと相関する多型の頻度が低いが、ガンのリスクでは相関があまり見られない。
4) 認知、カルニチン代謝と相関した領域にWellderly特有の多型が集積している
などだが、結論どおり、決め手がなかったという結論だ。
  個人ゲノムサービスが始まっているが、個々の疾患リスクを調べるだけではなく、年齢を加味した健やかな老化指数を総合的に計算できるようにして、健やかな老齢を目指した生活改善をはかるためのテクノロジー開発に挑戦する会社が出て欲しいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
2016年4月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930