しかし、有病率について過去と現在を比べる時注意しなければならないことがある。すなわち医学の進歩で、診断技術が進んで、病気の診断率が上昇することだ。従って、過去と現在を本当に比べる際、同じ診断基準を適用する必要があるが、実際には簡単ではない。これを行ったのが今日紹介する英国医学研究会議の生物統計局で、4月19日号Nature Communicationに掲載された。タイトルは「A two decade dementia incidence comparison from cognitive function and ageing studies I and II (認知機能と高齢化研究I及びIIからわかる認知症の発症率の20年間の変化)」だ。
研究は1990-1993年、及び2008-2011年にそれぞれ約5−6000人の65歳以上の高齢者を同じ基準で面接し認知症の発症率を調査している。このように過去に採用されたのと同じ方法で診断しているところがこの研究のミソだ。さらに、診断後2年間の経過観察を行い、認知症を発症していることを確認している。
結果は完全に予想に反し、20年後同じ基準で判定すると、65歳からのあらゆる年齢層で認知症の発症は低下しており、調べた全体でみるとほぼ20%の低下がみられ、特に80歳以上の男性では40%と著しく低下している。一方、女性では全年齢層で低下の程度は5%程度という結果だ。80-85歳の女性のように上昇した群も確かに存在するが、結論的には20年して、認知症の発症率は着実に低下していると言ってよさそうだ。もちろん、これに人口の増加率を加味すると、認知症の絶対数は上昇しているということになるが、過去の統計をそのまま拡大して途方にくれる必要はなさそうだ。
もちろんわが国で同じことが言えるかどうかわからない。ただ、発症率を計算する時、できるだけ漏れのないよう医学の進歩に合わせた診断法を用いて統計を取ることで、過去との比較が難しくなることは心する必要がある。高血圧でも、糖尿病でも、現在の統計とともに、過去の診断基準での発症率を調べて、長期間の傾向を調べることは今後重要な課題になるように思う。
この研究には、同じ地域での比較ではないなど幾つかの問題がある。従って、同じ調査を各国でやり直してみることは重要だ。その上で低下が観察されたら、この20年の時代の変化が、間違いなく男性の認知症の発症率を抑えることに寄与したことになり、その要因を明らかにすることで、有効な認知症対策を発見できることになる。古い診断基準をそのままつかうとは、目からウロコの研究だった。
カテゴリ:論文ウォッチ