今日紹介するエール大学からの論文は、マウスのES細胞でアデニンメチル化が検出できることを示した研究で、3月30日号のNatureに掲載された。タイトルは「DNA methylation on N6-adenine in mammalian embryonic stem cells (哺乳動物のES細胞に見られるN6-アデニンのDNAメチル化)」だ。
この研究では、まず本当にアデニンメチル化が存在しているのかどうかを一分子シークエンサーを用いて調べている。これまでの研究では、メチル化されたアデニンを含むDNA断片を取り出してきて配列を調べていた。ただ、哺乳動物ゲノムではメチル化されたアデニンの量が少なく、簡単ではなかったようだ。そこで著者らは、ES細胞が分化の方向にコミットする時ヒストンがH2A.Xに置き換わる現象に注目して、ここにメチル化アデニンが濃縮するはずだとあたりをつけ、H2A.Xヒストンが結合しているゲノム部分を精製している。こうして集めたDNAを今度は一分子シークエンサーで直接解析する。これまでの研究で一分子DNAを複製する時、ポリメラーゼの反応時間からアデニンと修飾されたアデニン(この場合はメチル化アデニン)を区別できることがわかっている。これを利用して、間違いなく哺乳動物でもアデニンメチル化が存在していることを証明した。アデニンとメチル化アデニンを区別できるなら最初から全ゲノムを一分子シークエンサーで読めばいいはずだが、もともとエラーの多い方法なので、解読のカバレージをあげる必要があり、そのためにメチル化された部分を濃縮しないと正確な解読は難しいようだ。
メチル化アデニンの存在を確認した後、次にメチル化アデニンを脱メチル化する酵素がAlkbh1であることを特定し、この遺伝子をノックアウトしたES細胞でおこるメチル化アデニンの変化を調べることで、1)アデニンメチル化は、X染色体上の遺伝子発現を比較的選択的に抑制する働きがあり、2)これはX染色体に飛び込んできたL1トランスポゾンのうち、新しい、伝播力を持った完全なトランスポゾンだけがアデニンメチル化されたためであること、そして3)L1のアデニンメチル化により近くのエンハンサーの活性が低下すること、を示している。
この結果から著者らは、新しくX染色体ゲノムに統合されたL1トランスポゾンが、細胞分化時に活動するのを抑える特殊な働きがメチル化アデニンの機能ではないかと推論しているが、さらに研究が必要だろう。
この週に、一分子シークエンサーを用いた研究が続いて報告されているが、このテクノロジーのポテンシャルが発揮され始めたことを実感する。
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