この研究は本来社会学というより、生物学の一分野である生態学研究に分類できる。しかし、最初から熱帯雨林破壊という社会問題を科学的に解決する糸口を見つけたいという明確な社会的目的を持って行われている点で、社会問題の科学と呼んでいいだろう。
さらに一万年前と比べると熱帯雨林を始めとする原生林の8割以上が失われ、現在も失われ続けており、二酸化炭素問題を始め地球レベルの変動の原因になっている。ただ、この変動は人間の活動によってもたらされたもので、この変動についての生態学的研究は自然と人間の接点でおこる社会問題の科学になる。
もちろん我々も熱帯雨林破壊が地球に及ぼす影響は十分認識しており、多くの政府も経済発展を犠牲にしても熱帯雨林を保護する政策を取り始めている。ただ、この政策の中心は森林を完全に破壊することの規制にだけ向けられており、ジャングルの中で行われる様々な人間の活動についての評価はほとんど行われていなかった。
この研究の目的は、森林内で行われる選択的伐採、人為的な焼畑や火事が、アマゾンの熱帯雨林の生物多様性に及ぼす影響を調べ、エビデンスに基づいて森林内での人間の活動の規制について提言することだ。
研究ではブラジルパラ州の熱帯雨林の様々なローケーションにある水場での、植物、甲中、鳥類の定点観察を2年にわたって行い、その周辺で行われた人為的活動が生物多様性に及ぼす影響を調査している。実際156種、150万個体の観察に基づいて生物多様性の保存の程度が評価されており、大規模な研究であるのがわかる。
膨大な結果が示されているが、全ての詳細を省いてまとめてしまうと、
1) 森林を完全に破壊することで当然生物多様性もほぼ完全に失われる、
2) ただ、これまで規制の対象になっていた大規模破壊だけでなく、森林内で行われる一部の植物の伐採や、人為的焼却も、生物多様性喪失に大きな要因になっている。
という結論になる。
経済目的での大規模破壊が規制され、熱帯雨林が一見保護されているように見えても、ジャングルの中で行われる人間の様々な活動も規制しないと、生物多様性が失われ、その結果森林も失われることを警告している。そして様々な熱帯雨林の状況に即した実行可能な政策を提言している。
1ヶ月もするとブラジルはオリンピックに沸くだろう。しかしその経済状態を見ると、このような提言を実行に移す余裕はないと思う。この研究と同じような、国際的プロジェクトチームがブラジル政府と協力してこの提言を実行していくしかないだろう。いずれにせよ、社会問題の科学も、それが政策として実行されなければ、生物学で終わる。
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