今日紹介する英国バーミンガム大学からの論文は、救急体制の検証を行う一つの試みで、臨床では最も権威のあるThe Lancet7月9日号に掲載された。タイトルは「Weekend specialist intensity and admission mortality in acute hospital trusts in England: a cross-sectional study(イングランドの救急病院組合での週末での専門家の数と入院後の死亡率:病院横断的調査)」だ。
英国は一般医制度など、完全自由診療を制限して医療費増大を抑える代わりに、医療の完全無料化、患者登録による予防医療の充実など最新の医療をどう平等に提供するかを模索している。この医療行政のもう一つの柱が、重点配置された専門家による救急医療体制の構築だ。この構想は一定の評価を得ているが、週末には患者死亡率が上昇することが指摘されて、専門の医師の配置などまだまだ解決すべき問題があると指摘されてきた。
この指摘にエビデンスを示して答えるべく、週末に専門家は救急病院に配置されているかの一点に絞って、イングランドの115の救急指定病院、15000人の医師について調査したのがこの研究で、焦点が明確で、行政にもすぐ反映されるいい研究だと思う。
調査は、2014年6月15日日曜日と、18日水曜日の朝8時から夜8時までの12時間の救急対応で専門家がどのように配置されていたかを、主に聞き取り調査で行うとともに、その時入院した患者の死亡率を比較している。
結果だが、予想通り日曜日の専門家の配置は全医師の11%で、水曜日の42%と比べると極端に低い。その代わりに、一人の専門家が日曜日は1.7倍過重な労働を行って穴埋めをしているが、それでも患者あたりの専門家の参加は平日の40%程度で止まっている。
一方、患者の死亡率を調べると日曜日はやはり高い。ただ、この死亡率が専門家の配置によるのかどうか詳しく調べると、明確な関連は見つからない。従って、専門家の配置だけでなく、病院全体の機能がどうしても日曜日は低下すると考えたほうが良いという結果だ。
この結果を受けて、鉄道などの交通機関と同じで、365日全く同じように機能する病院体制を作るのか、ほとんどの市民のサイクルに合わせた病院を作るのか、これは行政の問題だ。しかし、一般の方にはほとんど知られていないが、医学雑誌を見ると、医師が過重な労働のために燃え尽き症候群に陥る問題についての論文が散見される。したがって、この問題を医師にだけ押し付けるのは間違っていると思う。
いずれにせよ、焦点を絞ってこのような調査が行われ、多くの病院がそれに協力するのを見ると、あまり根拠のない専門家の意見にだけ頼って医療行政が決まっていく我が国はまだまだ後進国から抜け出せていないと思う。
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