同じように亀の甲羅は体を隠すためにあるという話も、今の亀を見れば納得するし、私も疑ったことはなかった。
今日紹介するデンバーの自然科学博物館からの論文はこの定説に対して、亀の甲羅は穴を掘るための適応から始まったという新たな説を提案する研究で7月25日号のCurrent Biologyに掲載された。タイトルはズバリ「Fossorial origin of the turtle shell(亀の甲羅は穴掘りから生まれた)」だ。
亀の甲羅ができるためには、肋骨が前後に太くなり融合する必要がある。このように甲羅が完成した亀(プロガノケリス)と、まだ完全完成していない亀(オドントケリス、パッポケリス)の化石から、2億5千年前から約2億年ぐらいにかけて身体を守るために肋骨の前後への肥大、融合が起こったと考えられてきた。
一方、著者らは、もし、身を守るために肋骨が肥大したとすると、この結果肺機能と運動機能が極端に損なわれたのではないかと疑問を呈している。確かにトカゲの運動を見ると身体を左右に曲げながら移動する。もし肋骨が肥大すると、この動きは抑えられる。さらに、私たち人間にとっても肋骨は呼吸に重要な働きをしていることから、肋骨の動きが阻害されると肺機能が落ちる。これは充分納得の議論だ。
この疑問を解くのが南アフリカで新たに発見された2億6千万年前のユーノトザウルスの化石だ。ユーノトザウルスの肋骨はオドントケリスと比べても強く肥大している。しかし、頭や手足は完全に露出しており、頭を隠すためにこの構造が発達したとは思えない。一方、目の構造、頭の構造、手の力強い構造、強い指に長い爪、などから考えると、穴を掘る強い手足を支える構造として肋骨が肥大した可能性は充分ある。
オドントケリスなど他の亀も、肘が張った強い尺骨を持っており、同じように穴掘りが得意だったと考えられる。
ユーノトザウルスの化石は氾濫原の地層から発見されるが、パッポケリスやプロガノケリスも湖の近くの陸上に住んでいたと考えられている。したがって、みな本来穴掘り亀だろう
これらを総合して、著者らは乾期にはほとんど水がない氾濫原で、水を待ってた穴掘りの上手なトカゲが、進化を生き延びたと提案している。
ここからは個人的感想だが、運動や呼吸を犠牲にして得た形態が次に穴の代わりになったとすると、進化を「環境の自己への同化」という視点から見ている私の考えには完全に合致する。
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