この原因は、この因子が末梢血の血小板数とは無関係に、巨核球へ分化する前駆細胞を増殖させるためで、血小板が増えすぎて血栓ができる危険性を完全に解決できなかった。このため、せっかく開発されても臨床に使われないで終わっている。
当時のクローニング競争を知る世代から見ると、今日紹介するハーバード大学からの論文は「え!こんな方法で血小板が増えるの?」と驚く論文で7月27日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Noninvasive low-level laser therapy for thrombocytopenia (侵襲性のない低レベルレーザーによる血小板減少症の治療)」だ。
侵襲性のない近赤外レーザー(LLL)は傷の治りを早めたり、鎮痛の目的で現在使われている。細胞を用いた研究から、近赤外光が細胞の代謝や生存に影響を及ぼすことがわかっている。この研究では、近赤外光照射によりATP量が上昇する点に注目して、ATPに強く依存する巨核球からの血小板分化を亢進できるかを確かめるところから始めている。
期待通り、試験管内で分化が進んだ巨核球にLLLを照射するとATPの量が上昇し、細胞学的に巨核球が巨大化して、多くの血小板を作るようになる。そしてLLLがミトコンドリアの細胞内増殖を促進することが、血小板産生の上昇につながることを明らかにしている。
実際にLLLでミトコンドリア増殖が促進される細胞学的メカニズムは大変面白い点だが、今日はこの詳細は省いて、実際にこの方法が血小板減少症の治療に使えるかどうか調べた実験のみを紹介する。
全て体の小さいマウスモデルの話だが、まずLLLの全身照射により骨髄の巨核球のATP合成が上がることを確認した上で、γ線照射により血小板減少症を誘導した後、LLLの全身照射を行い、血小板がほぼ正常に回復することを確認している。 他にも巨核球が発現するCD41に対する抗体による細胞障害や、あるいは抗がん剤による血小板減少についてもこの方法で血小板数を正常化できることを示している。一方、正常マウスにLLL照射をしても血小板数のオーバーシュートはなく、トロンボポイエチンで見られるような副作用がないことがわかる。
最後に、試験官内ではあるが、ヒトの巨核球もマウスと同じようにLLLに反応してATPが上昇し、血小板への分化が促進することを示している。ただ、ヒトの場合、骨髄内にLLLを到達させることは簡単でなく、残念ながらこの方法をすぐにヒトに応用するのは難しいようだ。 しかし、こんな簡単な方法で血小板だけを増やすことができる可能性は捨てがたい。なんとかこの光で骨髄内が照らされることを期待したい。他にも、 iPSなどから試験官内で血小板を作ろうとする試みが進んでいるが、この方法は使えるかもしれない。
カテゴリ:論文ウォッチ