この研究はメバロン酸経路の酵素に変異が起こった患者さんでは、免疫が亢進しているという1990年代に示された報告から、メバロン酸抑制剤のスタチンが免疫を高めるアジュバントとして働くのではないかと言う発想から研究を始めている。
まず市販の様々なスタチンと抗原を混合してマウスに注射する極めて単純な実験で、脂肪に親和性を持つ形のスタチンが免疫反応を10−100倍増加させ、よく使われるアラムアジュバントをはるかに凌駕することを示している。また、これを利用してマウスをインフルエンザから守れるワクチンも作ることができることを示している。
期待通り、スタチン、特にシンバスタチンが免疫反応を強く誘導するアジュバントとして働くことが分かったので、次にメバロン酸経路のさまざまな酵素を薬剤で阻害する実験を行い、
1) シンバスタチンが、樹状細胞の抗原の保持時間を高め、
2) これはシンバスタチンによりゲラニル・ゲラニルディフォスフェート(GGPP)の合成を抑え、この結果small GTPaseのゲラニル化を低下させ、細胞内のエンドゾームの成熟が止まり、抗原が長くエンドゾーム内にとどまるため、多くの抗原が長時間提示される、
3) その結果強い抗原刺激が長く起こり、免疫反応が高まることを示してい
このように、メバロン酸の下流の阻害剤、またsmall GTPaseのゲラニル化阻害剤、そしてエンドゾームの成熟阻害剤など、樹状細胞の抗原提示能を高める可能性のある、多くの標的が示されたことになる。
この方法がガン免疫にも利用できるか、ガン細胞を免疫源として使う実験で確かめている。すなわち、シンバスタチンとともにガン細胞を免疫したほうが、長期の延命がはかれることを明らかにしている。そして最後に、ガン細胞とシンバスタチンを注射した後、抗PD-1抗体を併用すると、ガンの増殖を強く抑制できることを示している。 2種類のガンモデルで行なった研究で、他のガンにどこまで通用するかはわからないが、差はおおきい。ただ本当に抗原提示だけでここまで反応があがるのか、他のアジュバント作用がないのかわからない。しかし、ガンの標的としてこれまでガン細胞の増殖に関わる分子が探索されてきたが、PD1抗体のおかげで、免疫過程も抗ガン剤開発の標的になっていることがよくわかる。
我が国ではPD-1が効かない人がいることがよく問題にされるが、PD-1が効果を示すためには免疫が成立していることが必須条件になる。従って、効かないと思われても、免疫を成立させればPD-1を用いてその免疫を高めることができる。そのために今必要なのは、この論文のように、PD-1を効くようにするため、馬鹿らしいと思えるような可能性までしらみつぶしに当たる研究の多様性だ。また、このためにはネオ抗原に標的を定めるといった声も聞こえてくるが、研究の多様性を奪ってしまえば、せっかくのPD-1も使用が限られる。今何が必要かをしっかり見定めることが、今こそガン治療の領域では求められている。
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