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10月18日:補体第5成分の扁平上皮癌特異的増殖促進活性(10月8日号Cancer Cell掲載論文

2018年10月18日
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このHPでは普通なら考えつかない面白い現象を紹介してきているが、今日紹介するOregon Health & Science Universityからの論文はその1例にだろう。

我が国ではパピローマウイルスと聞くだけで顔をしかめる人も多いが、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染により扁平上皮癌が誘導されることは、多くの実験結果からあきらかになっている。そして、このウイルスをマウス扁平上皮で発現させる実験系は、ガン発生の優れたモデルとして現在も使われている。今日紹介する論文は HPVによる発がん実験を行う過程で、補体第5成分に対する受容体が、ガン化の過程を強く後押しすることを見出してそのメカニズムを調べた研究で、10月8日号のCancer Cell に掲載された。タイトルは「Complement C5a Fosters Squamous Carcinogenesis and Limits T Cell Response to Chemotherapy (補体成分C5aは扁平上皮のガン化を促進し、ガンに対するT細胞の反応を制限する)」だ。

繰り返すが、この研究はHPVを導入により誘導した扁平上皮のガン化がC5a受容体のノックアウトマウスでは低下しているというおそらく意外な発見に始まっている。そして、この効果がガンに浸潤している白血球のC5a受容体の発現が上昇することと相関していることを見出す。

この過程を解析し、HPV感染による上皮の異常増殖が始まると、おそらくこの細胞からの刺激で白血球のC5a受容体の発現が強く誘導されるとともに、マクロファージが分泌するウロキナーゼがC5を切断して活性化型のC5aを局所で生成し、これがC5a受容体を刺激するという悪性のサイクルが成立する。これにより、白血球が持続的に刺激される慢性炎症がガン組織で形成され、これが血管新生因子などを介して、ガンの増殖を促進するという結論を引き出している。

この結論が正しければ、ウロキナーゼを抑制することで、ガンの増殖を抑えるはずだと、移植した扁平上皮癌を微小管形のダイナミズムを抑制するパクリタキセルとウロキナーゼの阻害剤を併用することで、ガン細胞の増殖を強く抑制できることを示している。

このウロキナーゼ抑制の効果は、炎症を抑え、血管増殖因子の分泌を抑えることも重要な要因になっているが、他にも活性型のCD8陽性のキラー細胞の腫瘍内の数が2−3倍増殖していることを発見している。ガンの立場から考えると、C5aによるマクロファージの活性化は、組織内へのCD8キラー細胞の浸潤を阻害し、またガン抗原とキラー細胞の接触時間を長引かせてキラー細胞の活性のチェックポイントに働く事で、組織障害性を弱めることでも、ガンの進展を助けていることになる。

これをさらにうがってHPVの立場で考えると、HPVは扁平上皮の感染した後、時間をかけてガン細胞の増殖を促進する環境を作り上げ、さらにガンに対するキラー活性を抑制する方向に組織化する恐ろしいウイルスであるということになりそうだ。

意外な話だったが、可能性はいろいろありそうだ。残念ながら、ウロキナーゼ阻害による効果は、強いとはいえ根治をもたらすものではないだろう。しかし、チェックポイント治療などとの組合せに関しては相性はいいのではないだろうか。扁平上皮癌の予後は比較的いい方だが、コントロールが効かなくなったケースでは、ぜひ考えてみる戦略かもしれない。しかし、こんなシナリオがあるなど想像もしなかった。
カテゴリ:論文ウォッチ
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