今日紹介するドイツ・ボン大学からの研究はてんかんの診断のために手術的に多数の電極からできている記録装置を海馬近くに埋め込んだ患者さんの、様々な数に対する反応を調べた稀有な研究で、11月7日発行予定のNeuronに掲載された。タイトルは「Single Neurons in the Human Brain Encode Numbers(ヒトの脳内で数をコードする単一ニューロン)」だ。
この研究では内側側頭葉(MTL)と呼ばれる、記憶に関わる海馬とその周りを含み領域に数百本の電極の束を留置し、各電極からの神経興奮を記録するという、動物では普通に行なわれている記録を、人間で行なっている。
記録をとる課題だが、約5秒ほどの間に、画面に連続的に提示される様々な大きさのドットで表現された具体的数(例えば3つのドット)と計算の指示(+ or ー)を見せて頭の中で計算させ、その数を1ー10までの数字が並ぶキーボードで答えるという課題をこなしてもらい、それぞれの段階で(例えば数字を見たり、足し算をしたりする)、神経細胞がどう興奮するかを調べる。例えば、2個のドットをみて、それを2として認識し作業記憶として保持しているあいだに、今度は足すのか引くのか演算ルールが提示され、その後でもう一つの数字がドットの数として示される。それを前に見た数字に足すか、引くかして、最終的に5という数字を押すという一連の過程で、神経細胞の活動を記録している。500を越す電極一本一本の一定時間内の反応をPCの助けを借りながら解析する一種のビッグデータアナリシスだ。
この研究では、視覚から数の概念を統合するプロセスは対象にせず、この初期過程で数の表象へと変換されたあとの過程が調べられている。結果を見て最も驚くには、1、2、3といった数に反応する細胞が存在することだ。すなわち、3つの点を見た時いつも強く反応し、他の数の点には弱くしか反応しない神経細胞が数多く見つかる。すなわち、細胞ごとに反応を起こす好みの数を持っているということだ。しかし、これは決して一対一の対応になっているわけではない。例えば5に反応する神経細胞は、4、3、2と数が5から離れるにしたがって反応の強さが低下していく。すなわち、全体の数の表象が把握された上で、それぞれの数と他の数との関係性が一つのニューロンに認識されていることになる。また、最初の図に示されたドットの数を見た時形成されたそれぞれの細胞の反応パターンは、少し経過した後の作業記憶でも同じように維持されるが、他の数と計算した後、答えを出した時に反応する数に対しては同じ細胞は対応していない。
さらに面白いのは、同じような実験をアラビア数字、すなわち抽象的文字で表された数でを見せて行なっており、ドットで示された具体的な数の表彰と、アラビア数字を見た時に反応する神経とは、一致していることは珍しく、それぞれの神経は離れて存在していることを示している。
他にも色々解析が行われ、とくに一種のAIアルゴリズムを用いて、予測性が生まれるかなども調べているが、この論文の重要なメッセージはすでに紹介したと思う。数字の概念については、やはり人間でも行う必要があったこと、また誰もが関心がある問題なので、私のような素人にもとても面白い論文だった。 最後に、最も面白かった現象をもう一つ紹介すると、1から5までの数に反応する神経を数えると、1と5に反応する神経が最も多いのにも驚いた。ひょっとしたら私たちの指の数と何か関係があるのかもしれないし、十進法の原点を見る思いがした。
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