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10月14日:ビタミンCによる癌治療(11月11日号 Cancer Cell 発行予定論文)

2018年10月14日
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ビタミンC(VC)がガンの予防に効くという考えは、ノーベル化学賞に輝いたライナスポーリングの後押しもあって、私の学生時代は注目を浴びていたように思うが、私が医師として働くようになってからは、ビタミンC をがん治療や予防に使うという話は立ち消えになっていた。ところが21世紀に入ってから、このHPでも何度か紹介したように、ビタミンCのがん治療への効果が見直されはじめている。この状況をまとめてくれた総説が11月11日発行予定のCancer Cell に掲載されるので、まとめの意味で紹介する。タイトルは「Ascorbic Acid in Cancer Treatment: Let the Phoenix Fly(がん治療としてのビタミンC:不死鳥よ飛べ)」だ。

メイヨークリニックで行なわれたビタミンC経口投与の臨床治験が否定的な結果で終わってからはVC治療はほぼ忘れ去られるが、21世紀に入って、VC自身の体内での動態が詳しく調べられ、経口投与ではなく静脈注射なら高い血中濃度を達成できることが明らかになる。

そして以前このHPで紹介したように(http://aasj.jp/news/watch/6679)VCががん細胞特異的細胞障害性を示すことが相次いで示され、さらにそのメカニズムも明らかにされて来た。この結果、臨床的にも再評価が始まり、2,010年代に入ると、体重1kgあたり1gのVCを静注するプロトコルで臨床治験が行われ、化学療法の効果を高めると同時に、化学療法の副作用を低下させることが報告される。

最初この効果は、VCにより細胞外に発生する過酸化水素の効果だと説明されてきたが、最近になって他のメカニズムも注目されるようになってきた。まず昨年8月の論文ウォッチで紹介したように(http://aasj.jp/news/watch/7291)、VCがDNAのメチル化を外す酵素TETの効果を高めることが明らかになった。

このことから、DNAメチル化の影響が強いと考えられる骨髄単球性白血病、骨髄異形成症候群をはじめ、TET2の変異やTETの機能が抑えられるIDH変異の存在する様々なガンでその効果を期待することができる。また、このようなTETの明確な変異がなくても、VCには過酸化水素を介するがん細胞特異的障害性は存在し、加えてガンにエピジェネティックスが重要な働きをすることが明らかになってきた今、正常TETの機能をさらに高めてVCが効果を示す可能性は十分ある。

このように、VCに過酸化水素を介するガン特異的細胞障害、及びDNA立つメチル化促進する作用を通したがん治療への可能性が新しく評価されるようになった結果、米国の治験サイトでアスコルビン酸とガンというキーワードで検索すると、117件の治験が進んでいることがわかる。ざっと見たところ、すい臓がんの治験の数が最も多いが、それ以外にも様々なガンで治験が進んでいる。しかも終了した治験も多いことからおいおい結果は発表されていくと思う。今後期待通りの結果が発表されれば、ぜひ安価な治療として積極的に導入されることを期待する。

この総説では最後に、経口投与で到達できる濃度で、がんを治療したり、予防したりする可能性についても議論しているが、著者は原則的にこの考えに対しては否定的だ。というのも、大量の静脈注射(50g以上)に患者さんは十分耐えられることがわかっているし、対象となる患者さんで最低量を決める治験を行うことは煩雑で、倫理的にも問題があると考えており、私も完全に同意する。

そして不死鳥(VC)は蘇るとして、最も重要なのは患者さんの生存と抗ガン効果を一次評価項目にした治験結果が集まることだとして、多くの医師に科学的治験を呼びかけている。ぜひわが国でも多くの機関で真剣に検討されることを願う。
カテゴリ:論文ウォッチ
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