今日紹介する米国NIHからの論文はdysbiosisの背景には単純な因果性があるかもしれないことを示した面白い研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Pathogen elimination by probiotic Bacillus via signalling interference(Bacillusを用いるプロバイオはシグナル阻害により病原菌を除去する)」だ。
バランスのいい腸内細菌叢というエコロジカルな発想の原点が、病原菌の増殖を止めるために行われる便の移植だろう。ただ、これらの効果のメカニズムについてはよくわかっていないのが実情だ。この研究では抗生剤耐性菌の典型である黄色ブドウ球菌の体内への定着を抑える細菌叢のメカニズムを調べている。
都会生活では、どうしても食品の中の抗生物質や殺菌剤の影響で、自然状態で起こる黄色ブドウ球菌の体内への定着を観察することが難しい。そこで、タイの田舎で、自然の食品を食べて生活している人200人の便と鼻水を調べ、黄色ブドウ球菌が常在している人25人を特定している。この調査では、ブドウ球菌の腸管と鼻腔での定着は完全に一致している。
さて、ブドウ球菌が定着している人で、便の細菌叢のメタゲノムを調べても、全体の多様性や量といったエコロジーにほとんど差はないが、ブドウ球菌の定着した人の便には全くバシラス属が存在しないことに気付く。重要なことは、これが都会から離れて暮らしているタイの人特有の結果で、これまで都会人などで調べられていた細菌叢解析を見直してもこのような差は無い。したがって、おそらくブドウ球菌が定着するのをバシラス属が阻害するのではないかと考え、ブドウ球菌の定着に必要な条件を次に探索している。
定着についてはすでに論文があったようで、ブドウ球菌間で情報をやりとりして、代謝を変化させるクオラムセンシングのメカニズムのうちの一つAgr系が定着に必要なことが示唆されていた。この研究でも、これを確認し、Agrクオラムセンシングが存在しないと、マウス腸内への定着ができないことを確認している。
あとは、このクオラムセンシングシステムを抑えるバシラス属の分子を探索し、バシラス属が分泌するフェンギシンがAgr-クオラムセンシングシステムののうちの細胞膜でおこる情報のセンシング、すなわち情報伝達ホルモンと言えるAIPとその受容体のAgrCの結合を阻害し、このクオラムセンシングシステムに支配されるオペロンが抑制されることを示している。
話は以上で、この結果は良い菌叢がフェンギシンに収束できるという話で、今後dysbiosisとして話を決着させることへの強い逆風になると思う。さらにこの結果は、難治性のブドウ球菌の治療にフェンギシンが使えることも意味し、重要な貢献になっていると思う。申し添えるが、もちろんバシラス属の定着にエコロジーが関わる可能性は十分ある。
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