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10月24日:フラヴィウイルス感染後の腸運動異常(11月15日号Cell掲載論文)

2018年10月24日
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フラヴィウイルス感染症は神経に感染するため、厄介なウイルスが多い。私たちの世代では、何と言っても日本脳炎ウイルスがもっとも馴染みがある。蚊のいそうなところにDDTを散布しているニュースは今でも記憶に残っている。最近で言えばジカウイルスだろう。胎児の脳に感染して、小頭症を引き起こすことがわかり、世界がパニックになったことは記憶に新しい。わが国にはそれほど馴染みがないが、日本脳炎と同じように土地の名前がついているフラヴィウイルスの一つが西ナイルウイルスで、重症化することは少ないが、いったん重症になった例では救命率がいちぢるしく低い。

この研究では、これほど好神経性を示すウイルスなら、腸の蠕動を調節している腸管神経叢にも感染するのではという着想から始まった研究で11月15日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「Intestinal Dysmotility Syndromes following Systemic Infection by Flaviviruses (フラヴィウイルス感染後に起こる腸の運動障害症候群)」だ。

タイトルを見て何か意外なことが起こっているのかと思ったが、ちょっと拍子抜けしたことは断っておいたほうがいいだろう。この研究では、西ナイルウイルスやジカウイルスを皮下に注射した時、小腸の中間部から後方にかけて腸管が拡張し、便秘が起こり、腸の動きが全般に低下することを発見する。そして期待通り、ウイルス感染群では腸内神経叢の細胞の核が拡張して、死にかけていることがわかった。

神経感染ウイルスなので、当然といえば当然なのだが、このグループはウイルスで細胞が直接死んだのではなく、ウイルスが感染した神経細胞が、細胞障害性のCD8細胞のアタックを受けて死ぬという仮説をたて、それを検証している。すなわち、リンパ球やCD8の欠損したマウスでは、いくら神経に感染しても腸の運動障害は起こらない。従って、フラヴィウイルス感染による腸内神経叢の異常は、細胞障害性免疫により発症していることが示された。この点については以外と言えるかもしれない。また、臨床的には重要な発見かもしれないが、メカニズムについては特に驚くほどのことではない。

そこで最後に、ウイルス感染がもっと長期の腸の異常を誘導し、人間の慢性的過敏症の原因になるという可能性についても調べ、ウイルス感染後の急性期を乗り越えられても、感染2ヶ月後も、腸の運動異常が続くことを発見している。ただ、これは決して細胞障害性反応が続いているわけではなく、ちょっとした炎症刺激ならなんでも過敏に反応する腸の運動異常が発症することがわかった。おそらく多くの人間の腸の過敏症は同じようなメカニズムで起こるのではないだろうか?という結論だ。

即ち、ウイルスによる直接神経死でも、T細胞による細胞障害性でもない、いわゆる過敏症という状態が、引き起こされることを強調しているが、ただメカニズムについては全くわからない。このメカニズムに全く迫らないで、Cellに掲載するのはちょっと甘いかなと思った。
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