パーキンソン病の多くは遺伝的ではないが、PinkとParkin遺伝子の欠損による遺伝的パーキンソン病も存在する。これまでの細胞生物学的研究からPinkとParkinがParisという分子を介して神経細胞のミトコンドリア変性に関わるのではとする考え方が通説で(http://aasj.jp/news/watch/6449)、私もそう考えていた。
ところがこの通説に対し真っ向から挑戦したのがモントリオール大学の研究で、ミトコンドリアの一部が離脱したミトコンドリア小胞の形成にPink/Parkinが関わり、これによりミトコンドリア分子の一部が抗原として提示され、それに反応するT細胞が神経細胞を障害してパーキンソン病が起こるとする説が2016年にCellに掲載された(http://aasj.jp/news/watch/5450)。
今日紹介する同じモントリオール大学からの論文はこの2016年の研究の続きで、2016年明確でなかった自己免疫反応の引き金が腸内の細菌によることを示した論文で昨日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Intestinal infection triggers Parkinson’s disease like symptoms in Pink1 −/− mice (腸内の細菌感染によってPink(-/-)マウスにパーキンソン病様症状が起こる)」だ。
さて、Pink/Parkinに変異があると、人間ではほぼ100%パーキンソン病が発症するが、遺伝子ノックアウトマウスではほとんど異常が起こらない。結局この違いは、人間では寿命が長いために細胞にストレスが蓄積して病気が発症すると説明してきた。
この研究ではミトコンドリアに発現させた外来抗原がMHCに提示されるまでのプロセスをPink(-/-)マウスで解析し、マクロファージがグラム陰性細菌により刺激された時のみ、ミトコンドリア抗原が細胞表面に提示されることを突き止める。
これは、ミトコンドリア小胞の産生を誘導するSNX9の発現が高まるからだが、通常この分子はPink/Parkinによりリン酸化され分解される。ところがPinkが欠損するとこの抑制が効かず、抗原提示が高まることになる。
次にPink欠損マウスの感染実験を行い、Pinkが欠損していても感染防御自体は全く正常と変わりはないが、Pink欠損マウスだけでミトコンドリア抗原の細胞表面での発現が起こり、キラーT細胞を誘導することを示している。また、この抗原特異的なT細胞は脳へ移動することもマウスで示している。
そして、感染後4ヶ月目には一過性ではあるが、L-dopaで治療可能なパーキンソン様運動障害が見られることを示している。じっさい、感染後6ヶ月では線条体の4割のTH陽性細胞が減少する。ただ、これらの異常は時間とともに回復する。
結果はこれだけで、人間に当てはめて考える時、人間でのミトコンドリア抗原は何かを特定すること、そしてマウスではなぜ一過性で回復するのかについて説明する必要があると思う。後者については、人間はSPFマウスと異なり常に細菌感染に晒されているため、この様な変化が繰り返すことを理由の一つに挙げている。
何れにしても、もし免疫反応が細胞変性の原因なら、多発性硬化症と同じ様な治療法を試してみる可能性が出てくる。この研究の真価は、治療実験が成功して初めて明らかになる様に思う。