急性骨髄性白血病にも幹細胞が存在し、これが様々な治療に対する抵抗性の元凶であることをトロントのJohn Dickらが示したのは、ずいぶん昔のことだが、この結果はまだ治療に生かされていない。このため、骨髄移植が難しい高齢者の急性骨髄性白血病は根治のための方策が整っていない。
これまでこの白血病幹細胞(LS)を他の細胞から区別する様々なバイオマーカーが開発されてきたが、今日紹介するバーゼル大学からの論文はNK細胞の標的に発現しているNKG2D ligand(NKG2DL)がこれまで以上に利用価値の高いマーカーになることを示した研究で7月18日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Absence of NKG2D ligands defines leukaemia stem cells and mediates their immune evasion (白血病幹細胞はNKG2Dリガンドを発現せず、これにより免疫系から逃れている)。
これまで白血病幹細胞(LS)の治療抵抗性は、増殖能や生存といった観点から研究されてきたが、免疫中心に癌を考える様になった現在を反映して、この研究では最初から細胞障害性のT細胞やNK細胞に認識できないことがLSの条件だと決めて研究を行なっている。
これまでもガンの免疫回避とNKG2Dの関係を調べる研究はあったが、この研究ではNKG2D分子が認識できる全てのリガンドを網羅するため、NGK2D分子に免疫グロブリンFc部分を結合させた分子への結合でNGK2DLを検出している。おそらくこれが、この研究のミソといえる。
結果は、177例のAML患者さんで、様々な割合でNKG2DL陰性細胞が存在し、これがLSとして働いていることを突き止める。そして、試験官内の実験系ではあるがNKG2DL陰性細胞は、NK細胞によるアタックを受けないことを示している。
また、これまでLSの検出に使われてきたCD34を発現していない白血病でもこのマーカーを用いてLSを特定できることを明らかにしている。
そして、NKG2DL陽性と陰性の細胞の遺伝子発現を比べ、NKG2DLの誘導がPARP1と呼ばれるDNA損傷などで誘導されるポリADPリボシル化酵素で抑えられていることを明らかにしている。すなわちPARP1がLS 状態を維持するための重要なシグナルであることを示している。
この結果に基づいて、PARP1阻害剤をNKG2DL陰性細胞に加えると、NKG2DLの発現を誘導することができ、白血病の増殖がNK細胞などで抑えられる様になることを示している。
実際には通常の治療を行った時の再発を遅らせられるかなど、実験して欲しいところだが、少なくとも現在行われているNK細胞移植治療にはPARP1阻害剤は効果が予測できることから、より治療に近いところにあるガンの幹細胞マーカーだと思う。