5月3日 ApoE4と脳血管関門 (4月29日号 Nature 掲載論文)
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5月3日 ApoE4と脳血管関門 (4月29日号 Nature 掲載論文)

2020年5月3日
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多くの医学雑誌は現在新型コロナウイルス感染論文で溢れかえっているが、もちろんこれ以外の面白い研究は今も発表し続けられている。この非常時の中にも維持される常態こそが科学の力になる。実際、研究が止まってもこの常態を維持することは可能だろう。大手メディアはコロナについての番組で埋め尽くされているし、SNSでも同じ状況だ。かく言う私も、コロナ関係の論文紹介は、SNSにもアナウンスすることにしているが、元科学者として常態の維持に協力することが重要で、自宅にこもる時期だからこそ、ゆっくり科学のトレンドを考えたいと思っている。

そんなとき、阪大の岡田真理子さんから頼まれていた講義が中止になったので、ぜひ正常な生活を維持してもらう意味で、内容を拡大して「Abiogenesis」と言うタイトルで、38億年前に地球に生命が誕生する条件についての研究紹介を3回に分けて準備し、Youtubeで配信することにした(https://www.youtube.com/channel/UC1WeyfqdOM5GYCm7QObRpjQ/featured)。本来は阪大の学生さん向けに準備したが、せっかくなのでオープンにしている。明日で最終回になるが、この機会に大学のカリキュラムとしては扱いが少なく、普通は考えないことを考えてみるきっかけにしてほしいと思う。またロックアウト中に、椛島さんに頼まれた皮膚科の講義も作ろうと思っているので、これも公開することにする。

と長い前置きになったが、今日紹介したいのは生命の誕生とは全く関係のない認知症の話で、APOE4の変異が認知症の原因になる一つの要素が脳血管関門が局所的に破壊されると言う面白い観察だ。タイトルは「APOE4 leads to blood–brain barrier dysfunction predicting cognitive decline (APOE4は脳血管関門お機能異常を誘導し認知機能の低下をきたす)」だ。

APOEには3種類のアイソフォームが存在し、それぞれのアイソフォームは様々な形でアルツハイマー病など認知症に関わっている。例えばクライストチャーチ型変異を持つAPOEによって、アミロイドがどれほど蓄積しても認知症状が出ない老人がいることを示した論文を以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/11677)。また、 APOEのε4変異はアルツハイマー病の原因遺伝子として知られている。

この研究ではε4のバリアントを持つAPOE(APOE4)とε3バリアント(APOE3)を持つ患者さんを集めて、造影剤を用いるDCE-MRIというMRI検査を用いて脳の血管機能、特に脳血管関門が壊れていないか調べている。

結果は、APOE4を持つ人だけ、不思議なことに海馬および海馬傍回と呼ばれる場所だけで、血管関門が壊れて造影剤の漏れが見られることを発見する。結果はこれだけだが、

  • この漏れの程度は、海馬や海馬傍回の萎縮を伴い、認知機能と相関する。
  • しかし、AβやTauなど他のアルツハイマー分子の蓄積との相関は全くない。
  • 一方、関門破壊の指標となる脳脊髄液中のPDGFRβの量と相関する。
  • 関門の破壊は血管周囲細胞のAPOE4シゲに下流に存在するサイクロフィリンA経路を介するMMP9の発現が主要な要因になっている。

人間のMRI検査から様々な可能性を探った、現象論的研究だが、APOE4による認知症は従来のアルツハイマー病とは異なる可能性を示唆しており、重要だ。さらになぜAPOE4が海馬や海馬傍回特異的に関門を破壊するのかなど重要な問題が生まれたと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ