5月15日 自己免疫病と統合失調症の性差の背景に補体がある(5月11日 Nature オンライン掲載論文)
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5月15日 自己免疫病と統合失調症の性差の背景に補体がある(5月11日 Nature オンライン掲載論文)

2020年5月15日
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20世紀の後半から病気と相関するゲノム領域探索が急速に進み、特に次世代シークエンサーの登場で解析制度が高まった結果、個人ゲノムを解析するサービスを受けている人の数が米国では2000万人に達しようとしている。とはいえ病気のリスクとして特定された領域から病気までの因果性が明らかになったケースは多くない。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、因果性の理解を重視して、これまでのゲノム研究を見直すことの重要性を示した目から鱗とも言える論文で5月11日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Complement genes contribute sex-biased vulnerability in diverse disorders(補体遺伝子は様々な病気に対する感受性の性差に寄与している)」だ。

この研究では、SLEやシェーグレン病のリスクと相関するとされてきたHLA遺伝子領域の因果性に注目して研究を進めている。免疫疾患でHLAがリスク遺伝子として上がってくると、「当然のこと」とわかった気になる。ただ、この研究ではHLA遺伝子領域に補体の第4成分、C4AとC4Bも存在すること、そしてSLEやシェーグレン病ではC4遺伝子との相関もこれまで指摘されてきたことに着目して再検討している(これもHLAとの連鎖不平衡の結果と片付けられていた)。

結果は明確で、C4AおよびC4Bのコピー数と病気のリスクと相関させると、C4のコピー数が多いほど病気のリスクが低下することを確認する。また、これまでHLAとの相関とされてきたDRB 遺伝子座も、結局はC4Bとの連鎖不平衡の結果だと結論している。

すなわち、SLEやシェーグレン病の様な自己抗体が重要な役割を演じている自己免疫病では、C4活性が高いほど病気が抑えられることを示しており、抗原抗体複合体が補体により除去されることを考えるとなるほどと納得する。

この結果に基づき、著者らは補体の量が、これら自己免疫病が女性に多いことを説明できるのではと着想し、遺伝子リスクだけでなく血中のC4量を調べている。すると、自己免疫病の発症が高まる30歳ぐらいで、女性だけでC4の量が低下するが、男性ではこの低下が存在しないことを明らかにした。すなわち、女性はもともと、おそらくホルモンの関係でC4タンパク質の発現が30歳ぐらいまで低下を続ける。このため、C4遺伝子の活性が低くなる遺伝子リスクが合わさると、免疫複合体を除去するシステムがうまく働かず、自己免疫病になる確率が上がると結論している。

これだけでも十分面白いが、同じC4コピー数が統合失調症とは逆の関係、すなわちコピー数が多いほどリスクが高まる関係があることに注目する。C4と統合失調症の相関についてはこのブログでも以前紹介したが、補体がシナプス再構成に関わる結果だと考えられている(https://aasj.jp/news/watch/4790)。 この研究では、脳脊髄液中のC4活性が男性だけで20代に急速に上昇することを示し、これが男性で統合失調症が多い理由ではないかと結論している。

もちろん実験的に確かめる必要はあるが、物の見方を少し変えることで新しい可能性が見える好例ではないかと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ