6月2日 がん細胞内に巣食うバクテリア (5月29日号 Science 掲載論文)
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6月2日 がん細胞内に巣食うバクテリア (5月29日号 Science 掲載論文)

2020年6月2日
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腫瘍組織に細菌が存在することは昔から知られていた。また、いくつかの細菌は腫瘍の増殖を促進することも知られている。ただ、このような話を聞くとき、細菌が細胞の間に存在していると言ったイメージで考えていた。

今日紹介するイスラエル ワイズマン研究所からの論文は、腫瘍組織に存在する細菌の多くは細胞内に寄生し、それぞれのガン特有の細菌叢を形成していることを示す研究で5月29日号のScienceに掲載された。タイトルは「The human tumor microbiome is composed of tumor type–specific intracellular bacteria (人間の腫瘍組織の細菌叢はガンのタイプに特異的な細胞内バクテリアからできている)」だ。

この研究ではまず数多くのガン組織を集め、そこから調整したDNAの中に存在するバクテリアリボゾーム検出と並行して、細菌特異的成分であるLPSやリポタイコ酸を抗体染色で検出し、まずそれぞれのガン組織にどの程度の細菌が巣食っているのか、細菌はどこに生息しているのかを調べている。

実際には、サンプル調整中に起こる汚染で侵入したバクテリアを除外することが重要で、様々な工夫を重ねて、細菌の量が最も多いのが乳がんで、骨肉腫、すい臓がん、グリオブラストーマと続くことを明らかにしている。

そして驚くのは、in situで細菌の16Sを染色すると同時に、LPSやリポタイコ酸を染めると、全てガン組織の細胞内に存在することがわかった。詳しく観察すると、膜成分のリポタイコ酸は全てマクロファージ内に存在し、貪食された膜成分が検出されると考えられる。一方、16Sは、ガン細胞および血液細胞に存在し、他の細胞には存在しない。ガン細胞内に細菌の16Sが検出されるのに、膜成分のリポタイコ酸が存在しないと言うことは、細菌は細胞壁のないL-formで存在することを示唆するが、電子顕微鏡的に確かめている。

さらに驚くのは、これらの細菌が一つの種類というのではなく、一種の生きた細菌叢を形成している点で、乳がんには175種類の細菌が存在している。また、細菌だけが利用できるD-アラニンがガン細胞内で取り込まれることから、細胞壁は持たないが細胞の中で細菌が生きていることを明らかにしている。

次に、single cell レベルの配列決定を行い、それぞれのガンでどのような細菌が増殖しているのかを調べると、それぞれのガンで特徴的な細菌セットが維持されていることがわかる。これは、ガンとの共生など、一種の相互作用の可能性を示唆する。そこで、細菌のもつ代謝経路と、ガンの関係を調べると、骨肉腫では骨のコラーゲンを分解する酵素を細菌、喫煙者の肺がんではタバコの有害物質を分解する酵素を持つ細菌、などが特定されている。

他にも細菌が免疫系細胞内に存在することは当然自然免疫を誘導するので、おそらくガンの進展にも関わるかもしれない。

以上が結果だが、細菌叢をホストの細胞内の細菌叢として見直すことで、ガンの治療標的も見えてくるかもしれない。しかし、細胞壁のないL-formがこれほどの数で存在するとは、バクテリアの適応力恐るべし。

カテゴリ:論文ウォッチ