6月8日 抗ウイルス薬:個人の視点と集団の視点(Nature Communication オンライン掲載論文)
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6月8日 抗ウイルス薬:個人の視点と集団の視点(Nature Communication オンライン掲載論文)

2020年6月8日
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私の住んでいる兵庫県ではすでに22日間新型コロナ感染者の報告がなく、入院中の患者さんも五人になって、ほぼ収束したと言える。ただ世界では発症が続いている以上、次の波がいつくるか予想はできない。これに対し、ワクチンしか切り札がないようなステレオタイプな議論が巷では行われているが、要するに集団内のウイルス量を減すという視点から見れば様々な手段が存在する。実際、隔離も集団から見たら同じ目的で行われている。

などと考えていたら、テキサス大学オースチン校から、抗ウイルス薬を早期に用いることで、パンデミックを制御するシミュレーションがNature Communicationに報告されていたので紹介する。タイトルは「Modeling mitigation of influenza epidemics by baloxavir (インフルエンザの流行をゾフルーザで軽減する)」だ。

我が国では、個人のウイルス感染には抗ウイルス薬、集団にはワクチンと、目的を分けた議論が行われているように感じる。しかし、ウイルス感染でその患者さんが亡くなったとしても、もし抗ウイルス薬で排出ウイルス量が低下すれば、社会的効果は当然存在する。このことを、インフルエンザをモデルに行ったのがこの研究だ。

タミフルなどそれまでのウイルス感染最終段階で起こるウイルス排出に効果を持つ薬剤と異なり、塩野義製薬の開発した抗インフルエンザ剤ゾフルーザは、cap-dependent endonucleaseを阻害してウイルスのRNA合成を阻害するため、ウイルス量を迅速に低下させられる。この研究では、これまで得られているタミフルと、ゾフルーザのウイルス量抑制効果データをもとに、発症後薬剤を投与した場合のウイルス量や、他の人への感染力などをシミュレーションしている。

結果は明確で、ウイルス除去効果が高いと、感染力は急速に低下するため、ゾフルーザを服用したと仮定するシミュレーションでは2日以内で感染性はほとんどなくなる。一方、タミフルの場合は、薬剤治療を行わず免疫によりウイルスを自然消滅される場合と比べて感染性を抑える効果は限られている。感染性が落ちるということは、有名になった実行再生産係数を減らすことができる。

とすると抗ウイルス薬で感染性が低下することは、隔離と同じ効果があると予想されるが、実際30%の患者さんがタミフル服用したと仮定してシミュレーションしても、ピークを抑えることができる。もちろんゾフルーザはもっと効果が強い。例えば何もしなければ、200万人の患者さんが発生すると条件を設定すると、5割の患者さんがゾフルーザを服用するとすると、全感染者を100万人以下に抑えることができる。もし感染した全員が服用すれば、この効果はさらに高まる。

要するに、個人の治療薬も、感染症の場合は、感染後できるだけ早く多くの人が抗ウイルス薬を服用すれば、集団的効果が確実にあるという結果だ。

我が国は抗インフルエンザ薬を最も使用する国で、CDCでは重症者や高齢者に限るべきとしているタミフルも一般の患者さんに処方される。これについては私も批判的だったが、全感染者数を抑えるという意味では大きな効果があルことを再認識した。今回のシミュレーションでは、投与が早ければ早いほどいいという話なので、そのまま延長すれば流行がキャッチされた時点で予防投与すら考えられる。

個人的予想だが、現在進められている新型コロナウイルス特異的な薬剤の開発が進んで、場合によってはこれを予防的に投与する(全身投与である必要はない)方法の開発により、コロナの社会的インパクトが低下するほうが、ワクチンより早い気がする。あたるかな?

カテゴリ:論文ウォッチ