6月10日 ニコチンはガンの脳転移を促進する(Journal of Experimental Medicine オンライン掲載論文)
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6月10日 ニコチンはガンの脳転移を促進する(Journal of Experimental Medicine オンライン掲載論文)

2020年6月10日
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タバコの発ガン性は、煙に含まれる様々な化学成分が突然変異の確率を促進するためで、タバコを吸う主な目的であるニコチン摂取自体は、ガン自体に大きな影響はないのではと思ってきた。事実この考えが、ニコチン以外の化学物質を減らす電子タバコの基盤になっているように思う。

今日紹介するWake-Forestバブテスト医療センターからの論文は、ニコチンがガンの脳内での増殖を促進する可能性を示して、ガンと診断されたらニコチン摂取をやめたほうがいいことを明らかにした研究でJournal of Experimental Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Nicotine promotes brain metastasis by polarizing microglia and suppressing innate immune function(ニコチンはミクログリアの分化方向に影響して自然免疫を低下させ、ガンの脳転移を促進する)」だ。

この研究では、ステージ4の肺ガン患者さんを、今もタバコを吸っている人と、すでにやめている人に分けて脳転移の有無を調べ、ガン発症後も吸っている人では脳転移の確率が1.6倍も上昇していること、そして生存期間も大幅に短縮するという発見から始めている。

組織学的にタバコを吸っている人の脳転移巣を調べると、ミクログリアのなかでもM2と呼ばれるがん細胞の増殖を助けるタイプのミクログリアの数が上昇していることを発見する。

以上のことから、ニコチン刺激によりミクログリアの分化がM2へと引っ張られ、この結果脳転移したがん細胞の増殖が早まることが明らかになった。

あとは、ニコチン刺激がM2ミクログリアを誘導するメカニズムと、それによりガンの増殖が上昇するメカニズムを探ることになる。実際には、様々な要素が重なって脳内でのガンの増殖が促進することになるが、以下のようにまとめることができる。

  • ミクログリアはニコチン刺激により、Jak/STAT3シグナル経路が高まり、その結果としてM2型への分化が促進される。
  • M2ミクログリアはCCL20 ケモカインやIGF-1を分泌して、腫瘍、特に腫瘍幹細胞の増殖を高める。
  • 一方、ニコチンはミクログリアの貪食や自然免疫を抑え、ガンに対する免疫が低下する。

以上が主なメカニズムで、それぞれの過程でニコチンの影響を元に戻す薬剤も発見しているが、結局はタバコをやめてニコチンを減らすことが、ガンの脳内の増殖を抑えるという話だ。いい忘れたが、これは脳内での話で、他の部位の転移にはニコチンは影響がない。

最後に、この研究はWinston-Salemにある研究所から発表されているが、言わずと知れたWinston-Salemはタバコの銘柄にもなっているほど、タバコ産業で栄えた街だ。その街でいまはanti-smokingの研究が行われていることを知ると感慨が深い。

カテゴリ:論文ウォッチ