6月26日 パーキンソン病の新しい遺伝子治療 (6月25日号 Nature 掲載論文)
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6月26日 パーキンソン病の新しい遺伝子治療 (6月25日号 Nature 掲載論文)

2020年6月26日
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山中iPSは体細胞を一度多能性幹細胞に分化を戻してから、もう一度目的の細胞へと分化を誘導して、再生医学に利用している。これに対してdirect reprogramming、すなわち組織中の体細胞を操作して、他の細胞に変換するリプログラムの方法が昔から提案され、研究が進んでいると思う。ただ、効率などの点で、臨床応用が可能だと確信できる方法はまだ確立していない様に思う。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は中脳でアストロサイトを神経細胞へとリプログラムしてパーキンソン病を治療する方法開発についての研究で、臨床応用も可能ではと感じた。タイトルは「Reversing a model of Parkinson’s disease with in situ converted nigral neurons (パーキンソン病のモデルマウスを黒質局所でニューロンへ転換することで治療する)」で、6月25日号Natureに掲載された。

この研究グループは、PTBと呼ばれるRNA結合タンパク質が神経分化の転写ネットワークの鍵になっていることに注目し、アストロサイトのPTB転写を抑えることで神経細胞への分化を誘導できるという発見をから始めている。

一個のしかもRNA結合分子だけであらゆる過程のスウィッチを入れるというのは乱暴な考えに見えるが、1ヶ月という時間はかかるものの、半分以上のアストロサイトを機能的な神経細胞へとリプログラムできる。そして何よりも、中脳のアストロサイトを用いれば、ドーパミン産生細胞も分化してくる。

そこで、直接PTBのshRNAを脳内に注射して10週間待つと、8割近くの局所のアストロサイトが神経へと分化し、さらに機能的神経へと分化することがわかった。

中脳にこのshRNAを注射すると、12週間後には3割近い細胞がドーパミン神経へと分化することを確認している。すなわち、時間はかかるが、PTBをAAV+shRNAで抑制すると、脳局所でのアストロサイトを神経へと転換でき、その場所に応じた成熟神経、例えば中脳ではドーパミン鎮痙が出来てくる。

このドーパミン神経の機能を確認した後、黒質細胞を除去するというモデル実験系で、PTBを抑制するベクターを中脳に注射すると、

  • 12週間でドーパミン産生細胞が3割程度まで回復し、
  • これらの細胞は様々な神経結合を形成し、刺激依存的にドーパミンを分泌し、
  • 様々な運動テストで、パーキンソン病症状をほとんど正常化できる。

ことを示している。

一つの遺伝子を抑えて、あとは果報を寝て待つという少し乱暴な方法だが、しかし単純であることが逆にこの方法の魅力だろう。何に分化するかわからないなどと目くじらを立てず、脳の可塑性に任せることも面白い気がする。重要なのはこの方法がパーキンソンに限らない点で、場所に合わせた神経ができるなら、用途も広がることが期待できる。

高橋さんたちの細胞治療は完全を最初から求めているが、この完全性を捨て、結果オーライを求める割り切りが、吉と出るか凶と出るか期待してみていきたい。

カテゴリ:論文ウォッチ