6月7日 新しいHIVウイルス治療法(6月3日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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6月7日 新しいHIVウイルス治療法(6月3日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年6月7日
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これまでウイルス制御に用いられる手段は、ウイルスタンパク質に対する薬剤、ウイルス侵入に関わるホスト細胞に対する薬剤や抗体、ウイルスタンパク質に対する免疫反応、そしてウイルス感染細胞に対する免疫反応に限られていた。最近になってCRISPRも含め核酸医学が介入手段に加わったが、標的分子を抑えるという点では同じだ。

ところが今日紹介する上海/復旦大学からの論文はなんとペプチドを用いてウイルス粒子に穴を開けてしまうという、これまでにない方法の可能性を示す研究で6月3日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「An amphipathic peptide targeting the gp41 cytoplasmic tail kills HIV-1 virions and infected cells (AmphipathicなペプチドはHIVのgp41タンパク質細胞質内領域と結合してHIVウイルス粒子を賦活化する)」だ。

この研究では最初ウイルスEnvタンパク質の一部のペプチドを用いれば、ウイルス自体の感染を抑えられるという単純な発想で、Envタンパク質配列をカバーする15merのアミノ酸ペプチドライブラリーをスクリーニングし、F9170と名付けたgp41分子の細胞質内ドメイン由来のペプチドがウイルス感染をブロックすることを発見する。

おそらく最初は細胞外のドメイン由来ペプチドに活性があると予想していたと思うが、なんとウイルスエンベロップ内部の領域に対応するペプチドが活性を持つという意外な結果で、ウイルスタンパク質を真似ることで感染を抑えるという話ではなくなった。そこでこのペプチドをウイルス粒子に加える実験を行い、なんとウイルス粒子に穴が開いて、パンクさせることで、感染が防がれることを発見した。

さらにメカニズムを探ると、このペプチドはamphipathicな性質を持ち、ウイルスエンベロップに侵入し、gp41のLLP1と呼ばれる領域と相互作用を起こして、エンベロップに穴を開けることがわかった。すなわち、デタージェントと同じようなメカニズムでウイルス粒子を不活化する。ただ、このペプチドはウイルス特異的で、毒性はほとんどない。さらに、同じようにgp41を細胞表面に発現しているウイルス感染細胞もこのペプチドで穴を開けることができる。すなわちウイルス粒子だけでなく、感染細胞も殺せることがわかった。

これに基づき、猿を用いたウイルス制御実験を行い、期待通り血中ウイルスを検出できないレベルまで低下させること、また副作用はほとんどないことを示している。

全く新しい原理のHIV感染制御法と言えるが、課題も多い。まず完全にウイルス粒子が消失するのに、ペプチド投与をやめるとすぐにウイルスが現れることから、このペプチドだけではよほど濃度を上げない限り根治は難しい。また、半減期が短く、1日に何度も投与する必要がある。このため、臨床に応用するためには、まだまだ改良が必要だが、ともかく原理の異なる方法が開発できたことは重要だと思う。

実験の中でMERSに対するペプチドも可能性があることを少し述べているので、新型コロナについても同じような戦略が取れる可能性はあるので、その点でも期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ