2020年12月12日
個人のガンゲノムを解析して、そのデータに合わせて治療薬(できればガンの増殖を支える分子に対する分子標的薬)を用いるプレシジョンメディシンに期待が集まる一つの理由は、分子標的薬の副作用が比較的少ない可能性があるからだ。また、ガンの化学療法を避ける最も大きな理由は、副作用により、ガンだけでなく体も障害されることを恐れるからだ。そして、このような副作用の中で患者さんを苦しめるのが、吐き気や嘔吐、食欲不振の結果、栄養不全に陥いってしまうことだ。現在、吐き気を誘導する神経回路については研究が進んでおり、ヒドロキシトリプタミン受容体阻害剤や、ニューロキニン刺激剤などが処方されるが、効果がない場合も多い。
今日紹介する、今や新型コロナウイルスワクチンで最も有名になった製薬会社、ファイザー研究所からの論文は、悪液質と呼ばれる悪いサイクルに関わることが知られているGDF-15が、特にプラチナ製剤をはじめとするいくつかの抗ガン剤による吐き気、嘔吐、体重減少に関わっており、これに対する抗体でこの症状をかなり防ぐことができる可能性を示した研究で、12月1日号のCell Metabolismに掲載された。タイトルは「GDF-15 Neutralization Alleviates Platinum-Based Chemotherapy-Induced Emesis, Anorexia, and Weight Loss in Mice and Nonhuman Primates (GDF-15中和によりプラチナ製剤を中心にした化学療法による嘔吐、食欲不振、体重減少を、マウスおよびサルの動物実験で軽減することができる)」だ。
現在固形ガンの治療として最も広く使われているプラチナ製剤(シスプラチン)は、他の抗ガン剤と比べた時、特に吐き気、嘔吐が副作用として出やすい薬剤だが、この研究ではこれがプラチナ製剤が持つGDF-15誘導能に関わると決めて、研究を進めている。
まず、大腸ガン、肺ガン、卵巣ガンで、プラチナ製剤による治療を受けている人と、他の抗ガン剤で治療を受けている人を比べると、プラチナ製剤治療を受けている人の方が血中GDFが高い。また、体重の減少が大きい人ほどGDF-15レベルが高い。
そこでマウスモデルでプラチナ製剤の一つシスプラチンを投与する実験を行い、シスプラチンにより血中GDF-15が上昇し、これらは筋肉、腎臓、心筋など様々な組織に由来すること、そしてこの結果体重減少が起こることを明らかにする。これを確認した上で、次にGDF-15 ノックアウトマウスにシスプラチンを投与すると、体重減少が見られなくなることから、シスプラチンの副作用で食欲が低下し体重減少が起こるのは、シスプラチンがGDF-15を誘導するためだと結論している。
この研究のハイライトはこれが全てで、あとはもともとファイザーで開発してきたGDF-15に対するモノクローナル抗体を用いて、シスプラチン投与によるマウスの体重減少だけでなく、サルで見られる嘔吐、食欲不振などを軽減できることを示している。
そして、マウスにガン細胞を移植し、これをシスプラチンで治療する実験系で、GDF-15に対する抗体を投与すると、体重減少や健康状態を障害することなく、シスプラチンによる治療が可能であることを示している。
最後に、様々な抗ガン剤によるGDF-15 の誘導を調べ、これまで副作用として嘔吐が起こる確率が高いとされてきた抗ガン剤のほとんどは、血中GDF-15が上昇することを示している。
以上が結果で、副作用の原因を突き止めて、それを抑えることで、患者さんの体調を維持し、最終的な結果も改善する可能性を示す大事な研究だと思う。この他にも、他のサイトカインに対する抗体や、グレリンの刺激による食欲更新など、嘔吐や吐き気に対する治療法の開発が進んでいるが、患者さんが抗癌剤を恐れる最大の理由を除こうと、努力が続いていることを紹介できて良かった。
2020年12月11日
最近病気の解析にヒトのiPSやES細胞、他様々な細胞から分化させたミニ臓器を用いている論文をよく見かける。このミニ臓器(オルガノイド)の開発には、亡くなった笹井さんや、現在慶應大学医学部の佐藤さんなど、日本の研究者の貢献は大きい。中でも、人間の脳は最も研究が難しいため、オルガノイドは人間の脳疾患の研究に欠かせないツールになっている。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文はその典型で、X染色体上に存在するメチル化DNA結合分子MECP2をコードする遺伝子欠損によっておこるレット症候群をの治療薬を脳のオルガノイドを用いて探索した研究でEMBO Molecular Medicine e12523にオンライン出版された。タイトルは「Pharmacological reversal of synaptic and network pathology in human MECP2-KO neurons and cortical organoids(MECP2遺伝子が欠損したヒト神経細胞と脳皮質のオルガノイドに再現されるシナプスとネットワークの異常は薬剤により正常化できる)」だ。
この研究ではレット症候群の患者さんから幹細胞を作成したのではなく、レット症候群と同じ突然変異を導入したES細胞を、元のES細胞と比べている。これにより、遺伝的背景を同じにできるので、両者の違いは全てMECP2遺伝子欠損による結果とみなすことができる。
まず正常及びMECP2欠損の神経細胞を誘導し、遺伝子発現について両者を比較すると、グルタミン酸受容体シグナルに関わる分子を筆頭として、シナプス形成に関わる遺伝子の発現が軒並み低下していることがわかる。
これらの遺伝子異常、特にシナプスシグナルの異常に効くと想定される向神経薬を14種類を選んで、正常神経細胞には影響が少なく、MECP2欠損神経細胞でシナプス形成に関わる様々な分子の発現を高める化合物を探索した結果、痴呆の進行を抑える効果があるとしてすでに用いられており、GABA受容体に結合する化合物ネフィラセタムと、アセチルコリン受容体のアゴニストPHA 543613が、神経細胞レベルで見られるMECP2欠損の効果を正常化できる可能性があることが示唆された。
次に、正常細胞と変異細胞が混じった患者さんの脳を再現するために、ES 細胞から分化させた神経幹細胞を混合して、オルガノイドを形成し、細胞数、神経興奮などを調べると、それぞれの薬剤は高い効果を示している。
最後に、ノックアウトES細胞から2ヶ月かけて脳オルガノイドを作成し、これに2つの薬剤を添加すると、オルガノイド内での細胞増殖が正常化するだけでなく、シナプス形成や神経伝達因子合成過程に関わる分子の発現が正常化し、細胞間に形成されるシナプス数、及びオルガノイド内での神経興奮数も正常の半分以上にまで回復することを示している。
以上試験管内では、結構有望なしかもすでに利用されている薬剤を突き止めたことになるが、共に神経伝達に直接関わる分子であることから、可塑性の強い幼児を対象とする点で、臨床応用までは慎重な道筋が必要だと思う。しかし、期待したい。
2020年12月10日
私たちの記憶は、何を見たか、何を聞いたかだけでなく、どの順番で見たかという時間とリンクして刻まれる。場所細胞やGPS細胞の発見以来、記憶成立や呼び起こしの時間オーダーを記憶させるシステムが存在するはずだと探索が行われ、記憶過程に時間的表象を与えるTime CellやRamping Cellが発見された。このような動物での時間表象の研究についてはすでに2回論文を紹介している(https://aasj.jp/news/watch/9152 )(https://aasj.jp/news/watch/8870 )。
ただ、これらの神経細胞は一つの領域として存在するのではなく、海馬、嗅内野や側頭葉に散在しているため、単一神経を記録することが難しい人間では研究が進んでいなかった。今日紹介するテキサス大学からの論文は癲癇の開始部位を調べるために脳にクラスター電極を留置した患者さんにお願いして、この時間細胞を特定しようとした研究で11月10日号米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Time cells in the human hippocampus and entorhinal cortex support episodic memory(人間の海馬及び嗅内野に存在する時間細胞がEP記憶に関わっている)」だ。
この研究では、Free Callと呼ばれる、一定間隔ごとに順番に提示される単語(例えば 「家」 「世界」 「女王」・・・)を記憶してもらい、記憶後全く関係ない数学問題を解いた後、記憶した単語をどんな順番でも良いので思い出してもらうという課題を行ない、その間にクラスター電極で拾える細胞の興奮を記録している。この課題では、提示された順番を気にせず思い出してもらうのだが、実際には早い段階で提示された単語はよく記憶されており、また時間的に近接して提示された単語がまとまって記憶されることが多い。
この研究の目的は動物と同じような、課題で提示される単語とは無関係に時間だけを刻むTime cellと、各サイクルでの興奮の程度がさらに大きなサイクルで上がり下がりするramping cellが発見できるかに絞っており、これ以上でも、これ以下でもない。ただ、動物の実験と比べると、興奮のサイクルの明瞭さが低いため、発見自体が難しいのかも知らない。
とはいえ、記憶する過程、呼び出し過程で、一定のインターバルで興奮を繰り返すTime cellを海馬や嗅内野で検出できる。そしてこれらは特に集団を作らず、それぞれの領域に散在している。また、記憶成立時と呼び起こしの両方で反応しているTime cellも検出できる。
さらに、課題を行なっている間、Time cellの中には、それぞれ独自のサイクルでの興奮の程度が、大きなサイクルで上がり下がりするRamping cellも検出できる。そして、記憶成立過程で、time cellの興奮の揺れはθ波と呼ばれる4Hz程度のサイクルを刻んでいることがわかった。
最後に、記憶過程で示された単語の順番と、Time cellの興奮の相関を調べると、明らかに提示された単語の順番と相関が見られることから、単語を覚える過程でのTime cellとの連結が、私たちの記憶に時間表象を与えてくれることがわかる。
動物実験と比べると、実際の興奮のサイクルは明瞭さに欠けているようには感じるが、素人の私にも、確かに私たちの脳の中に時間細胞が存在し、それとの統合が私たちの記憶に時間を与えていることが実感できた。
2020年12月9日
新型コロナウイルス(covid-19)感染が始まった頃、メディアやSNSで続いた最も熱い議論は「PCR検査をもっと拡大すべきか」、そして「マスクは必要か」だった。賛成・反対どちらの意見にも理由があったと思うが、結局検査もマスクも現在の感染状況に立ち向かうための必須の条件となっている。ただ、現在必須アイテムになったからと言って、将来はわからない。マスクはコストという面で置き換えは難しい気がするが、上気道にスプレーして感染を防ぐ方法は様々な方法が現在開発中だ。例えばナノボディーを使う方法は、大腸菌で抗体を作れることから価格も抑えられるだろう。顰蹙を買った吉村知事のヨードによるうがいも、他人に感染させないという点では意味がある(実際歯科医のガイドラインは患者さんにオーラルリンスをお願いすることで、医師の感染機会を減らすことを推奨している)。おそらく「自分のことだけ考えず、周りの人を感染させない、人を思いやる気持ちを持ちましょう」とでも言っておれば、称賛されたと思う。
同じことは現在検査のスタンダードになっているPCRでも言えるだろう。PCRは今も遺伝子配列が明らかな病原体に対する感度の高い検査方法だが、定量性、機器、検査時間など、問題は多い。よく、陽性者の8割しか診断できないPCRは社会政策上問題があるという意見を述べる人がいるが、「だからPCRが必要ない」ではなく、「まだまだ改良すべき点が多い」と問題を指摘するのが筋だ。最近抗原検査が行われるようになってきたが、この検査には良い抗体が必要で、パンデミック初期にはまず利用できない。
その意味で、PCR検査に代わる新しい核酸検査の開発は必要で、我が国も備えが必要だと思う。時間短縮や機器の必要性の問題で言えば以前紹介したLAMP法もあり、事実検査として利用できるところまで来ていると思うが、これも遺伝子を増幅するという点では定量性の問題がある。
これに対しこれまで何度も紹介した(https://aasj.jp/news/watch/6731 )、(https://aasj.jp/news/watch/12887 )、特異的なガイドRNAを認識すると、一本鎖RNAやDNAを配列に関係なく切断するCas12やCas13を用いたクリスパー検査法は将来性が高いと思う。事実、Gootenbergにより開発されたSHERLOCKはFDAに検査として認可され、現在では核酸抽出プロセスの必要ないバージョンSHINEが完成している。
この方法の利点は、ガイドRNAさえうまく設計すれば、あとはCas13DNA切断酵素の量がそのままガイド/ウイルスRNAの量を反映できるので、定量性が高い点だ。残念ながら、SHERLOCKにはウイルスRNAをリニアに増幅するプロセスが入っているが、今後同じウイルス配列から設計されるガイドの数を増やせば感度も上げることが可能になる。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、全く増幅なしに複数のガイドRNAを組み合わせることで、定量的にCov2コピー数を検出する検査方法の開発で11月25日Cellにプレプルーフ版が出版された。タイトルは「Amplification-free detection of SARS-CoV-2 with CRISPR-Cas13a and mobile phone microscopy (CRISPR-Cas13aとスマフォ顕微鏡を利用した増幅の必要のないSARS-CoV-2検査)」だ。
いかに将来重要だと言っても、この論文がCellに掲載されるというのは、著者にDoudnaさんが入っているのと、非常時だからかと思ってしまう研究で、特に目新しさはなく、一言で言うと各コンポーネントを至適化し、実際の患者さんのウイルス量を定量できるようにしたという結果だ。
原理としては、ガイドに結合するウイルスRNAの存在で活性化されるCas13aを、結合しているRNAが切断されると蛍光分子が発色する構造を持った基質で検出する。このとき、感度が上げるガイドの選択、ガイドの数、そしてoff targetの活性で偽陽性の防止法など検討し、現状のPCRを凌駕する感度を持ち、30分で判断できる検査に仕上げている。
これら反応液は素人でも使える形にできるので、最後に蛍光量を分光計を用いて測定する代わりに、スマフォに装着したスマフォ顕微鏡を用いて、測定が可能にして、将来は家庭でも診断が可能になると結論している。すなわち、PCR検査の問題、機器、時間、定量性、そして人手を一気に解決できるという話だ。
ただ、私がこの技術に注目するのは、これらの利点以上に、CRISPR-Cas12/13システムは、
配列さえわかれば同じプラットフォームですぐに検査キットを作成で、新しいパンデミックに備えられる、 そして、一種類だけでなく、ガイドさえ増やせば、何十種類、何百種類のウイルスの存在をまとめて検査できる、
可能性を持っているからだ。
我が国でもすでに多くの投資がPCRに費やされたが、この投資に縛られると将来を失う。PCRは現在必要な投資として割り切って、将来のパンデミックや疫学に備える技術を我が国も今から準備することが重要だと思う。
今日はCRISPRを取り上げたが、他にもグラフェンを用いたバイオセンサーも開発されている(Alafeef et al, ACS NANO, https://dx.doi.org/10.1021/acsnano.0c06392 )ので、CRISPRにこだわることもない。
2020年12月8日
集団で狩をする動物は多いが、一見協力しているように見えても、基本は自己の欲望をドライブに、あとは周りの状況を見ながら個々にアタックを繰り返すことで相手を倒す。ただ、その後の獲物の分配については、力関係に基づくルールがある(狼の例:MacNulty DR, Tallian A, Stahler DR, Smith DW (2014) Influence of Group Size on the Success of Wolves Hunting Bison. PLOS ONE 9(11): e112884. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0112884 )。 面白いことに、このパターンは知能の発達したチンパンジーでも同じで、声を掛け合いながら獲物を追い詰めるように見えても、基本は自分の欲望に基づく自発的行動が集まっただけで、人間の狩のような役割分担が分化していないと考えられているようだ(例:Boesch and Bosche, Hunting behavior of wild chimpanzees in the Tai’ National Park, American Journal of Physical Anthropology 78:547, 1989)。
このようなサルの行動の脳機能を調べたのが、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文で、行動の課題は結構複雑だが、生理学的には昔ながらのタングステンニードルを用いて目的の領域の神経を一個づつ記録する古典的手法を用いた研究だ。タイトルは「Neuronal correlates of strategic cooperation in monkeys(サルでの戦略的協力に対応する神経活動)」で、11月23日号のNature Neuroscienceに掲載された。
最近頭の動きが鈍ってきたせいか、脳研究で用いられる課題を理解するのに時間がかかるようになった。絵入りで説明されていても、なかなか飲み込めない。よくよく読んでみると、この研究で使われたのは、いわゆるチキンレースゲームと言える課題で、自分の車を走らせてゴールを目指すときに、相手が反対側のゴールを目指して疾走してくると、そのまま勇気を奮って突っ走るか、それとも避けるか、を決断する必要がある。もちろん実際の車ではなく、向かい合ったサルの間にモニターを置き、そこに現れるサークルをそれぞれの車と見立て、向こうにあるご褒美までそのサークルを動かして囲い込む。ただ、このサークルをコントロールするジョイスティックは前か左右にしか動かせないため、そのまま前に進むと相手とクラッシュする。このとき、クラッシュを恐れずそのまま褒美にありつくと、ジュースがたくさん飲める。ただ、クラッシュすると全くジュースは飲めない。いっぽう、衝突を避ける決断をした方は、相手と比べると量は少ないが少しジュースがもらえる。ただ普通のチキンレースと違い、両方が同じ方向に避けた場合は、両方に褒美のジュースが十分もらえるが、これは相手と行動が完全に一致する必要がある。
このようなチキンレースゲームを行わせながら、サルの視線を追いかけると、突っ走る、避ける、協力する判断の時に、相手の顔、行動、ゴール、サークルなど、どこから情報を集めて判断しているかがわかる。詳細を省いて結果を述べると、サルも最終的にどうすれば一番得するかを理解でき、そのために協力関係を結んで、同じ方向に車をむけて衝突を避けるようになる。そして、視線解析から、何か一つの要員で決めるのではなく、500msという短い間に様々な情報を集め総合していることがわかる。このパターンは、野外で観察される狩での協力関係のパターンに似ていると思う。
このとき、共感や情動に関わる前帯状皮質(ACC)および、相手をみて社会的関係の判断に必要な上側頭溝(STS)の神経細胞をそれぞれ500個前後記録して、視線や行動との相関を調べ、判断の神経プログラムを探っている。
結論としては、期待通り社会的判断に際し相手の顔を見ているときにSTSの神経細胞が興奮する割合が多いが、しかしACCにも同じときに反応する神経細胞があり、それぞれ協力関係を成立させ他ときに反応することなど、相手の行動判断(例えばselfish, cooperative)ごとに異なる神経が興奮する。そして、例えば協力すると判断した時興奮した神経細胞は、その結果ジュースにありついたときにも強く興奮する。要するに、判断に関わるそれぞれの情報に対応して興奮する神経が存在し、それが組み合わさって(例えば協力するときは顔に反応する神経)一つの戦略を決めているという結論だ。
結構大変な実験だが、わかりやすい結論に絞れたわけではなく、意地悪く言ってしまうと複雑な行動の神経支配は複雑だと言っておしまいになっている感がある。とはいえ、この課題で見る限り、サルの判断は生きたサルが相手でも、人形や、モニター上のサルが相手でも変わらないという結果は興味深い。すなわち、現実とバーチャルが区別できていない。 神経科学的には何も結論できなかったが、行動科学的には興味深い研究だった。
2020年12月7日
動脈硬化を炎症の観点で見直すことの重要性は、ハーバード大学のPeter Libbyらにより指摘されたように思うが、その後外因ではなく、内因性の炎症が糖尿病や肥満を始め、アルツハイマー病まで多くの慢性疾患の病理を決める重要な要因になっていることは広く認められるようになった。この背景には、炎症が全ての細胞で、根本的には同じメカニズムで誘導できることがわかってきたからだと思う。
当然内因性炎症は自然免疫と重なることから、動脈硬化症で免疫機能が高まっている可能性はある。今日紹介するスペインの心臓血管研究所からの論文は、動脈硬化で血管内にプラークができることで、自己抗体が誘導されるのではないかと構想して行われたのではないかと思える研究で12月2日Natureにオンライン出版された。タイトルは「ALDH4A1 is an atherosclerosis auto-antigen targeted by protective antibodies (ALDH4A1は動脈硬化症の自己抗原で抗体による治療標的になる)」だ。
先に述べたように、この研究では動脈硬化が進行すると内因性炎症により自己抗体が誘導されるのではないかという単純な構想に基づいて始められている。この可能性を調べるために、高脂肪食を与えたLDL受容体欠損マウス(動脈硬化マウス)のリンパ節を見てみると、胚中心形成が高まり、記憶B細胞や、T 細胞、プラズマ細胞が上昇しており、特異的免疫反応が進行しているとを発見する。
次に、胚中心に存在するB細胞の抗原特異性を調べる目的で、発現している抗体遺伝子を1700個のB細胞について調べると、クラススイッチという点では動脈硬化マウスでIgG2aへのスイッチが強く誘導されている以外は、特定の抗原に対して抗体ができていることを示唆する抗体遺伝子の偏りの証拠は出なかった。しかし、抗体遺伝子の突然変異の蓄積で見ると、動脈硬化マウスで明らかに蓄積が高まっているので、特定の抗原ではなく、動脈硬化巣で発現する様々な抗原に対して免疫が進行していることが示唆された。
そこで動脈硬化が進展しているマウスで繰り返し出現するクラスター抗体を56種類再構成し、動脈硬化巣を抗体染色すると、なんと32%の(正常マウスでは8%)の抗体が動脈硬化組織を染色することがわかり、動脈硬化巣由来の抗原が免疫誘導に関わることが示された。
最初の話はここまでで、動脈硬化組織に外来抗原が存在しないなら、動脈硬化は一種の自己抗体を誘導することが示された。このことをさらに明確に示すために、これらの抗体の中から動脈硬化組織に高い反応性を示すA12と名付けた抗体を選び出し、反応する抗原を探索して、ミトコンドリアでタンパク質の分解に関わるaldehyde dehydrogenase 4 A1(ALDH4A1)がその抗原であることを特定している。実際、正常マウスでもALDH4A1で免疫すると抗体を誘導することができることから、動脈硬化による炎症の結果細胞死が誘導され、遊離された抗原に対して自己抗体ができると結論している。事実動脈硬化患者さんでは血中ALDH4A1が上昇している。
これだけでも面白いと思うが、最後にこの自己抗体を動脈硬化マウスに12週間投与する実験を行い、血中ALDH4A1の上昇を抑えるだけでなく、コレステロールやLDLのレベルを低下させ、肝臓での脂肪代謝を改善し、その結果としてプラーク形成を抑えることを示している。
以上、動脈硬化が自己免疫を誘導するのではと探索を始めて、それを証明しただけでなく、動脈硬化の新しい治療標的を発見したという盛り沢山の論文になっている。しかし、もしALDH4A1に対する抗体産生が動脈硬化で高頻度に見られるとすると、自己抗体が動脈硬化の進行を抑えてくれていることになるはずだ。本当ならさらに面白い発見なので、是非人間でALDH4A1反応性B細胞を追跡してほしい。
2020年12月6日
山中4ファクターを導入して体細胞からiPSを作成する効率は、確かに老化細胞では低下することが知られているが、それでも一定の確率で誘導は可能だ。すなわち、老化により蓄積するエピジェネティックな変化を元に戻すことができたことになる。実際、老化のほとんどの変化はエピジェネティックな変化ととらえ、iPS技術をエピジェネティックなリプログラミング技術と捉えると、iPSを用いて細胞を若返らせられないか調べるのは当然の方向と言える。しかし生体内で山中ファクターを発現させ、若返りを誘導しようとすると、Myc遺伝子を抜いたとしても腫瘍性の増殖が誘導されることがわかり、若返りどころではなかった。
今日紹介するハーバード大学からの論文はアデノウイルスベクターと、テトラサイクリンによる遺伝子発現コントロールシステムを使って、視神経に焦点を絞って山中ファクターと実際の若返りとの関係を調べた研究で12月2日Nature にオンライン出版された。タイトルは「Reprogramming to recover youthful epigenetic information and restore vision(若いエピジェネティック情報をリプログラミングで回復することで視力も回復する)」だ。
この実験系では山中4因子のうちから主要誘導性の高いMycを除いたOct4, Sox2, Klf4の3因子をセットで発現できるようにしたベクターを用いて、視神経に遺伝子を導入し、テトラサイクリンを飲ませて遺伝子発現を調節して、3因子の効果を調べている。
テクノロジーの詳細は全て省いて結論だけをまとめると、
3因子を発現させると、視神経を障害したときの、再生能が高まる。 視神経が障害されると、メチル化パターンが大きく変化するが、3因子を発現させるとこの再生能の上昇と並行して、DNAのメチル化が元に戻る。 この再生能の上昇は、Tet1、Tet2など脱メチル化酵素をノックアウトすると起こらないので、DNAメチル化を含むリプログラム依存的と考えられる。 物理的障害ではなく、ミクロ粒子を投与して眼圧を上昇させる緑内障モデルでも、同じように再生能を高め、実際、視力も回復させられる。 以上の実験で、障害を受けた視神経のメチル化パターンは老化神経のパターンに類似していることから、リプログラミングは老化マウスの神経機能改善にも役立つと考え、老化マウス視神経に3因子を4週間続けて発現させると、一種の動態視力検査が上昇する。そして、これらの改善に、DNAメチル化の変化が並行している。
になる。
要するに、山中ファクターによるリプログラミングもうまく利用すると、細胞の再生能だけでなく、エピジェネティックな変化により失われた機能改善に役立つことを示した論文で、特に見たり聞いたりする感覚機能の改善法の一つになるのではと期待する。
研究としては、転写レベルの詳しい結果がない点や、ヒストンコードについての検討がされていないことなど問題はあるが、視力の若返りの方向性として研究が進むような予感がする。
2020年12月5日
私自身は当初RNAワクチンについては懐疑的だった。というのもRNAは体内ですぐに分解され持続的免疫が成立しにくく、またリポソームのほとんどが筋肉に取り込まれてしまって、うまくクラスIIが必要なヘルパー細胞への抗原提示ができないのではと考えたからだ。しかし実際使われてみると、2回注射の必要性はあるとしても、予想を遥かに超える効果が示されてきた(https://aasj.jp/news/watch/14336 、最近の第3相についての報道)。
この時紹介した第1相の長期フォローアップについての報告がつい先日やはりThe New England Journal of Medicine に掲載され(図上)、
全ての人に中和抗体を誘導できるが、2回免疫プロトコルが必要なこと、 40日をピークに血中の抗体は下がり始めるが、低下の速度は予想外に遅く、119日目でも一定のレベルの抗体が見られる。 71歳以上の高齢者でも十分抗体は誘導され、長期間維持されるるが、全般に誘導される抗体価は低く、またばらつく傾向がある。
ことが示された。ほぼ4ヶ月抗体が検出されるというのはまさに予想外だ。
なぜ予想が外れたのかいろいろ調べてみると、私の勉強不足が予想の外れた原因で、以前紹介したようにRNAワクチンは長い科学的研究に裏打ちされていた(https://aasj.jp/news/watch/14336 )。
この時紹介しなかったが、私の予想が全く間違っていた理由の一つは、筋肉注射したワクチンの多くがリンパ節に移行し、直接免疫系に取り込まれることを知らなかったからだ。サルを使った実験で、太腿に注射したRNAワクチンは、筋肉細胞内にトラップされるのではなく、なんと4時間後には鼠蹊部リンパ節に到達し、そこで樹状細胞などに取り込まれることが既に発表されている。
モデルナのワクチンの容量は100μgだが、この100μgのうちRNAの占める割合はどの程度だろうか、いずれにせよ全てが一つのタンパク質をコードするRNA だと考えると、驚くべき量のRNAがリンパ節に到達することになり、おそらく濾胞内の樹状細胞(Follicular dendritic cell)にも取り込まれ、そこでは抗原が長く維持される可能性がある。
この可能性を裏付けるpre-proof論文が11月20日、ペンシルバニア大学からImmunity にオンライン掲載された。タイトルは「SARS-CoV-2 mRNA vaccines foster potent antigen-specific germinal center responses associated with neutralizing antibody generation (SARS-CoV2 mRNAワクチンは中和抗体産生につながる強い抗原特異的胚中心反応を培う)」だ。
この研究は同じスパイクタンパク質(モデルナやファイザーのスパイクとは少し配列が異なる)を一般的なアジュバントと組み合わせた組換えタンパク質ワクチンと、同じタンパク質をコードするmRNAワクチンをマウスの筋肉内に注射し、その後の抗体産生とともに、支配リンパ節での細胞反応を見ている。
驚いたことに、mRNA ワクチンを注射したときだけ、7日後に記憶免疫成立の鍵になる胚中心が出現し、アジュバントの性能の問題があるにせよ、タンパク質抗原では全く胚中心が誘導できない。また、胚中心には期待通り抗原と結合するB細胞が集まっている。以上の結果は、mRNAワクチンが予想外の抗体誘導の背景に、支配リンパ節で強い抗原特異的免疫反応誘導能があることを示している。また、これを反映してタンパク質を抗原とした時と比べ、遥かに高い中和抗体が誘導されることも確認される。
しかし胚中心反応自体は1−2週をピークとしてあとは低下する。しかし、これだけ強い胚中心反応が誘導できると、次の抗原により迅速に反応できる記憶B細胞が誘導されることで、実際記憶型のB細胞はRNAワクチンを注射したときだけリンパ節に誘導できる。また、次の反応にはTヘルパー細胞も必要だが、抗ウイルス活性に優れた抗体を作るときに重要なTh1型のヘルパーT細胞誘導についてもRNA ワクチンは遥かに優れている。
他にも様々な実験が行われているが、詳細はいいだろう。要するにB細胞、T細胞あらゆる点から見て、mRNAワクチンはタンパク質そのものを抗原とする場合と比べ、遥かに優れており、これは全てワクチンが速やかにリンパ節に移行し、強い胚中心反応を誘導するためだと結論している。もちろん、タンパク質抗原でも繰り返し抗原を注射すれば胚中心反応が誘導できるし、他のタイプのワクチンの中には、同じように強い胚中心反応を早期から誘導できるものもあるだろう。ただ、最初の予想を裏切って、今回RNA ワクチンがトップランナーになった理由がよく分かった気がする。
個人的には、リンパ節での反応の鍵になるのは、注射したRNAとそれを取り込む抗原提示力のある細胞、樹状細胞、follicular dendritic cell, そしてB細胞との関係だと思うが、注射したRNAとこれらの細胞との詳しい関係が明らかになると、より優れたワクチン設計のヒントになるように感じた。いずれにせよ、今回の新型コロナウイルスに限らず、ガンワクチンを考えても、RNAワクチンが重要なモダリティ〜になったことは確かだ。
2020年12月4日
遺伝的アルツハイマー病(AD)の研究から、アルツハイマー病は有名な、アミロイドβ、Tauだけでなく、シナプス形成分子、そしてミクログリア活性化分子など、様々な要因が絡み合う可能性が示唆されている。ただ、それぞれの要因がどのように絡み合うのかについては、ERストレスや、それにより誘導される炎症などが示唆され、現在研究中と言ったところだろう。ただ、ERストレスや炎症だけでは、例えばなぜAD患者さんの脳脊髄液でTauが上昇しているのかなど、説明できないことも多かった。
そんな中、アミロイドTau、シナプス、ミクログリアの変化を統一的に説明できると、急速に注目を集めているのがエンドゾームリサイクル機能異常仮説で、今日紹介するコロンビア大学からの論文は最初からこの仮説を検証することに焦点を当てた研究だ。タイトルは「Tau and other proteins found in Alzheimer’s disease spinal fluid are linked to retromer-mediated endosomal traffic in mice and humans(Tauや他のアルツハイマー病の脊髄液で検出される分子は、マウスやヒトでのレトロマーによるエンドゾーム輸送と関連づけられる)」だ。
ざくッと言ってしまうとエンドゾームは、細胞膜へ輸送されるリサイクル経路と、ゴルジ体へ輸送される逆行性経路に分かれるが、タイトルにあるレトロマーとは、この逆行性経路を指示するタンパク質複合体のことだ。最近注目されるADのエンドゾームリサイクル機能異常は、このリサイクルvs逆行のバランスが崩れることがAD状態の一つの表れだと考えているので、この研究ではVps35を神経細胞でノックアウトして、レトロマー形成を抑え、リサイクル経路を高めることで生じる脳脊髄液の変化を見ている。
すると、リサイクル経路が高まることで上昇するタンパク質の中に、アミロイドやアミロイド類似タンパク質のようなBACE1の基質分子が含まれることがわかった。すなわち、エンドゾームリサイクルによりBACE1の活性が高まる結果としてアミロイドやその他の気質の神経細胞からの分泌が起こることを確認している。
また、逆行経路を阻害した神経だけで分泌される分子を調べると、驚くことにTauが登場してきた。そして、レトロマー阻害により変化する神経変化に関わる分子から、鍵となる中核分子を計算してみると、なんとアミロイドとTauがトップ2に躍り出た。すなわち、逆行性のエンドゾーム輸送が何らかの原因で渋滞すると、ADの2大分子が両方脳脊髄液に分泌されるという結果を招くことが明らかになった。
もしこれが正しいとすると、BACE1の基質分子の脳脊髄液への分泌と、Tauの分泌が、人間でも見られるはずで、まず無症状の人で調べてみると、期待通り脳脊髄液のTauとBACE1基質APLP1やCHL1の分泌がほぼ完全に相関することを発見する。また、分泌量の測定を難しくする沈着したアミロイドプラーク量で補正すると、認知障害がで始めた人でも、脳脊髄液中のTauとAPLP1やCHL1との完全な相関が見られる。
さらに、ADを発症した人で見ると、分泌されるTauはリン酸化されており、また正常と比べると脳脊髄液中のAPLP1もCHL1もリン酸化Tauとともに上昇していることを発見する。すなわち、ADでは逆行性経路が何らかの原因で障害されていることが示唆された。
結果は以上で、レトロマーをノックアウトしたマウスの解析とADの解析を対応させて、エンドゾームリサイクル異常がADの様々な検査データの背景にあることを示した重要な結果だと思う。もともとエンドゾームは、シナプスでの神経伝達因子の活動や、ミクログリアの食作用など、これまでADの病態に関わる要因と直接の関わりを持っており、今後、エンドゾームリサイクルの視点から病態の再検討が進み、また様々な介入手段が開発されるのではと期待できる。
2020年12月3日
私たちのゲノムが染色体に分かれて存在するということは、それぞれの染色体のDNAに端があるということで、二重螺旋がどこかで途切れることになる。一般の人から見ると、なぜそれが問題なのかと思われるかもしれないが、生物はDNA切断には大変敏感で、それを放置できないようにできている。というのも、遺伝情報の安定性にとって、DNA切断は大敵で、早く検知して修復するシステムが出来上がっている。このシステムは当然染色体の「端」に存在する断端も修復しようとする。その結果、染色体同士が融合したりして大混乱が発生し、細胞の生存は維持できない。
これを防いでいるのが染色体の断端を隠して守るDNAの繰り返し構造Tループと、それを形成するために動員される多くの分子が集まった複合体Shelterinで、この形成に関わる分子が欠損すると、染色体の維持複製が大混乱に陥って細胞は死んでしまう。
今日紹介する英国フランシスクリック研究所からの論文はこの染色体の端を守るShelterinの分子構造が全能性のES細胞と分化した体細胞では異なっていることを示した研究で11月25日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「TRF2-independent chromosome end protection during pluripotency (全能性の段階で見られるTRF2非依存的染色体断端保護)」だ。
断端が保護されていると言っても、DNA複製のたびに構造は一旦解消し、再度保護し直す必要がある。このメカニズムはいつもよくできていると思うが、一本鎖部分を折りたたんで端が見えないようにしている。この研究では、Tループ結合タンパク質の一つTRF2が欠損してもES細胞は正常にしかも何世代も分裂するという発見から始まっている。実際普通の細胞でTRF2が欠損すると、細胞の修復機構が動員され、染色体同士が融合したり大混乱に陥り細胞は死ぬ。
このような場合TRF2に変わる分子の存在を探索するのが普通で、おそらくこの研究でもこの方向で研究が行われたと思うが、最後まで読んでも結局ES細胞でTRF2に代わる分子というのは特定されずに終わる。しかし、ES細胞のテロメア保護機構を詳しく解析し、
TRF2が必要ないという以外は、T ループ形成がSherterin複合体により形成され、断端が守られるプロセスは、普通の体細胞と同じ。TRF1とTRF2両方をノックアウトすると、Tループ形成ができずに、修復機構が動員され、染色体融合など大混乱が起こる。 このTRF2非依存性Tループ形成は、ES細胞の全能性のプログラムと密接にリンクしており、分化が始まるとTRF2依存性に転換する。実際の胎児では、胚盤胞は形成されるが、分化が始まる3.5日には保護の外れたテロメアが検出され、大混乱が始まるのがわかるが、これらの細胞は全て全能性に必須の遺伝子Nanogの発現がオフになっている。 ES細胞では、ほぼ正常のTループがTRF2なしに形成されている。
などを示している。
結論としてはTRF2無しにTループが形成できるということだと思うが、同じファミリー分子TRF1だけでいいのか、あるいは他の分子が存在するのかはよくわからない。酵母などではこのTループ結合分子は一つの分子で賄っている。このことから考えると、 ES細胞はより酵母に近いTループ形成システムを持っており、体細胞への分化が始まるとより複雑な2分子体制へと変換しているのではと個人的には想像する。考えてみると、体細胞のような死ぬべき細胞については、いつ死ぬかが重要で、より複雑なテロメア保護システムができたのかもしれない。いずれにせよ、ES細胞のTループをさらに詳しく調べることは、面白い発見につながるかもしれない。