過去記事一覧
AASJホームページ > 2021年

9月27日 英国バイオバンクを用いて特定が困難だった遺伝子変異を解析する:Tandem Repeat 数と疾患(9月24日 Science 掲載論文)

2021年9月27日
SNSシェア

我が国も含めて数あるバイオバンクの中で、英国バイオバンクは最も成功したバイオバンクだろう。実際私のような素人でも、毎日論文を眺めておれば、英国バイオバンクを用いた論文の数が増え続けていることは実感する。この驚きについては、2018年に2回に分けて、このバンクからの成果をまとめて紹介した(https://aasj.jp/news/watch/9080 、https://aasj.jp/news/watch/9083 )。 このバンクを見ていると、英国の科学力が当分揺るがないことはよく理解できる。

あれから3年がたったが、今日から2回、UKバイオバンクのデータを用いて、これまで困難とされてきたタイプの遺伝子変異について解析した論文を紹介することにした。最初はハーバード大学からの論文で同じ配列が繰り返すtandem repeatのなかで、タンパク質をコードするリピートについてのリピート数の変異と、形質との相関を計算できるようにした研究で、9月24日号のScienceに掲載された。タイトルは「Protein-coding repeat polymorphisms strongly shape diverse human phenotypes(タンパク質をコードしている繰り返し配列の多型は多様な人間の形質の発生に関わっている)」だ。

最初タイトルを見たとき、ハンチントン病の様な短いリピート数の変異の話かと思って読み始めたが、この研究ではそれよりは大きな遺伝子領域(実際には18bpから114bpの大きさ)がリピートする数の変異(VNTR)を特定しようと試みている。

このようなリピートの存在は、ヒトゲノム解析データからある程度推察することができるが、それが本当に遺伝する、しかもタンパク質の長さとして表現されることを確認するためには、発現遺伝子の配列から確認する必要がある。これを可能にしたのが、英国バイオバンクに集められた、全く同じ方法で解析された5万人のエクソーム解析で、まず118のVNTRを特定している。

次にVTNRの周りにある遺伝子多型と相関させることで、遺伝可能なVNTRを特定し、最後にそれぞれのVNTRのリピート数とUKバイオバンクに記載されている形質との相関を調べている。また、UKバイオバンクのSNP(一塩基多型)とリンクさせることで、UKバイオバンク50万人の多型データとの関連も調べることができる。

などと簡単に書いたが、膨大な補遺として添付されている方法を見ると、in silicoの仕事といっても、大変であることがわかる。逆に言うと、それをいとわない研究者であれば、この論文のように米国の研究者にも英国バイオバンクは開かれている。

この大変なビッグデータ処理の結果、最終的に5つのVNTRと形質との関わりを特定し、それぞれについて解析結果を紹介している。ただ、上がってきた遺伝子を見て驚くのが、すべてサルや人間で特に変化が見られてきた遺伝子で、人間の形成に深く関わっている点だ。それぞれについての結果は、以下に短くまとめておく。

リポプロテインA: 旧世界ザル以降に現れる分子で、これまでもKringle IV type 2ドメインの繰り返しが分子内に存在し、しかもこの繰り返し数に多型が見られることが知られていた。その意味で、この分子が特定されたことは、方法論の妥当性を示す。この研究ではさらに詳しくリポプロテインの血中濃度とリピート数の解析が行われ、大体10リピートが最大値で、それ以下、あるいはそれ以上の場合、リピート数が10個から離れるごとに、低下していくことを示している。

アグリカン:細胞外基質分子で、成長プレートの構造に関わる。57bpを単位とする繰り返しは13回から44回と多様で、大体1リピート増えるたびに1mm身長が伸びることがわかった。

TENT5A: PolyAポリメラーゼで、骨形成不全症に関わることが知られている。15bpの繰り返しが2回から7回と、多様性は大きくないが、5回繰り返しを持つ遺伝子で、身長が一番高く、2回繰り返しの場合と比べると0.6cm高い。

ムチン1:ガン細胞で合成が高まることが知られた、上皮により分泌され、細胞表面に結合して接着などに関わるが、その発現様式は複雑な分子といえる。割となじみがあったので、60bpの繰り返し配列が、なんと20回から125回まで大きく変化していることを知り、私も驚いた。ただ、この繰り返しとガンとの関わりはわからないが、腎臓の機能、特に血中尿素窒素や尿酸値がリピートが増加と並行して上昇する。

トリコヒアリン:ケラチンの構造維持に関わる分子で、毛の強度と関わることが知られている。18bpのリピートが5回から15回と多様性を示す。リピート数が増えると、男性型ハゲのスコアが低下する。一方、縮れ毛の程度は高まる。

以上が結果で、人間の様々な量的な形質の違いに、タンパク質をコードするリピートの数が関わることがよくわかる面白い論文だ。今後、メカニズムの解析が進むと、人間の進化や人種についての理解が大きく進展すると期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月26日 キラーT細胞を疲弊させないで増殖させるサイトカインの開発(9月15日 Nature オンライン掲載論文)

2021年9月26日
SNSシェア

IL-2 は脊髄動物進化の後期に現れたサイトカインで、そのシグナルは複雑だ。というのも、受容体はα、β、γの3ユニットからできており、それぞれは独自のシグナルを誘導する。また、細胞分化の過程で、それぞれの発現が異なり、例えば未分化なT細胞ではαの発現が低くIL-2の作用が限られる。しかも、同じ受容体を使うほかのサイトカイン、IL15やIL7まで存在しており、生体でこれほど複雑なシグナル系がうまく利用されているのは驚くべきことだ。ただ、医療に使うという点ではこのような複雑なシグナル系に阻まれて、かなり最初に発見されクローニングされたサイトカインであるにもかかわらず、臨床応用はほとんど進んでいない。

これに対し、3種類の受容体を区別して刺激する方法の開発が進んでおり、これまで紹介したようにモノクローナル抗体でβγ受容体刺激をブロックし、IL-2が最初にαに結合できるようにする方法、あるいは逆にαに結合せずにβγだけに結合するよう設計し直し、キラーだけを誘導できるようにしたIL-2などが開発されている。

今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、IL-2を人為的に変異させて受容体の結合を変化させることで、ガン治療に最適のキラーT細胞を培養できる可能性を秘めたサイトカインの開発で、9月15日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「An engineered IL-2 partial agonist promotes CD8 + T cell stemness(操作したIL-2の部分的アゴニストはCD8陽性T細胞の幹細胞的性質を促進する)」だ。

このグループは受容体とIL-2の構造解析を元に、IL-2の受容体結合性が変化した遺伝子変異体を作成し、α受容体が存在しなくても強くβγを刺激できるH9と呼ぶ変異IL-2を2012年に開発していた。この論文はその延長で、H9の129番目のアミノ酸を変異させて、γ受容体への結合を低下させ、よりβ下流シグナルだけが活性化できるようにしたH9Tの作用の解析だが、結果はおそらく期待以上で、増殖力を維持した幹細胞型、あるいはメモリー型のT細胞特異的な増殖に成功している。この分野はそのまま臨床応用につながり、競争が激しいので、論文掲載までの抵抗が大きかったようで、なんと論文掲載までにまる2年を要している。

さて結果だが、H9TでT細胞を培養すると、エフェクターへの分化を抑えたまま、キラーT細胞を増殖させることができる。すなわち、キラー活性に関わる分子、サイトカイン、さらにチェックポイント分子の発現は全く起こらないまま、細胞の増殖が続く。

クロマチンの構造を調べるATAC-seqで調べても、幹細胞型のクロマチン構造を維持したまま増殖が持続していることがわかる。さらに驚くのは、増殖細胞の代謝を調べると、IL-2で刺激した細胞と比べると、糖分解が抑えられたエネルギー代謝へとシフトしていることがわかる。この原因をさらに探ると、H9T刺激では、STAT5の活性化が抑えられており、これがチェックポイント分子の発現低下や代謝の変化につながっていることが明らかになった。

かなり割愛して紹介したが、まとめると、γ受容体への結合を低下させ、β受容体により選択的に結合するよう操作したIL-2変異体は、γ受容体下流のSTAT5活性化を抑えることで、チェックポイント分子の発現を低下させ、また未分化段階の嫌気的なエネルギー代謝が維持され、結果として分化が低下し、自己再生能力の高い幹細胞的性質を維持したままT細胞の増殖を維持させることが明らかになった。

最後にH9T を用いてメラノーマ抗原とともに試験管内で増殖させたT細胞の抗ガン活性を、マウスメラノーマ移植モデルで確かめると、IL-2で増殖させたT細胞と比べ、高い抗ガン活性を発揮する。また、CD19抗体をキメラ受容体として用いるCAR-Tを、H9Tで増殖させると、通常のIL-2を用いて増殖させたT細胞と比べて、極めて高い抗ガン作用を持つことを示している。

以上、腫瘍浸潤T細胞の試験管内での増殖、CAR-Tの試験管内増殖、さらにはガン抗原による試験管内での刺激・増殖、によるガン治療の可能性に大きく道を開くサイトカインが開発できたのではと期待できる、面白い論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月25日 アルツハイマー病を青班核の病理から見直す(9月22日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年9月25日
SNSシェア

最初、アミロイドβが蓄積することが神経死を誘導するのがアルツハイマー病と単純に考えていた頃から考えると、今はその病態理解はもっともっと複雑になっている。私個人の頭の整理として、アルツハイマー病の神経死は、細胞内のリン酸化Tauが線維様に絡まった蓄積物(fibrillary tangle)を形成することが直接の原因で、このtangle 形成過程をアミロイドβの蓄積が、おそらくグリアを介して影響すると理解している。この神経内のtangle 形成については、Braak stagingとして詳しく病理学的に解析されている。

この理解にたって、リン酸化Tauのtangle 形成を病理学的に調べる研究が進み、例えば嗅内野でのタングル形成がアルツハイマー病(AD)の初期から見られ、認知機能と深く関係することも明らかになってきた。さらに驚くことに脳幹の小さな青班核と呼ばれる神経核では、50歳代の正常人でも、なんと50%にtangle 形成が見られることが明らかになり、ここで始まったTauの異常が嗅内野を通って皮質全体に伝搬するかどうかが、ADの発症を決めるのではと考えられるようになっている。ただ重要性はわかっても、この青班核は1−2万の神経細胞からできた極めて小さな神経核なので、死後解剖以外ではその異常を特定することが困難だった。ところが、最近になって3TMRIといった高解像度のMRIが用いられるようになり、青班核密度(LC密度)をADの初期診断に使えないか期待が集まっている。

前置きが長くなったが、今日紹介するハーバード大学からの論文は、認知機能を追跡するコホート研究参加者の中で、様々な認知機能とともに、MRIでのLC密度、またAβやTauの広がりについてのPETデータが得られ、死亡後解剖して青班核の病理が正確に調べられているケースについて、それぞれの検査データを青班核の病理と相関させることで、LC密度が初期診断に利用できる可能性を調べた研究で、9月22日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「In vivo and neuropathology data support locus coeruleus integrity as indicator of Alzheimer’s disease pathologyand cognitive decline(生存中のデータと死後の神経病理データから、青班核の密度がアルツハイマー病の病理と認知機能の低下の指標になることがわかる)」だ。

極めて膨大な研究で、詳細は省くが、まず結論を紹介すると、「MRIで得られるLC密度は、嗅内野のTau蓄積を反映しており、高齢者で特にAβ蓄積度の高い人では、認知機能の低下と相関している」になる。ただ、これだけでは素っ気ないので、個人的に気になった結果を箇条書きにまとめておく。

  1. これまでの研究で、LC密度は、Tau蓄積によりノルアドレナリン神経のメラニン顆粒の脱落などが反映され、Braakのtangle形成による神経編成過程の病理ステージを反映している。
  2. LC密度が低下と、Tauの蓄積は強く相関する。特に、認知機能障害の見られない人では、LC密度は、嗅内野のTauの蓄積と密接に相関しており、LCの病理から、Tauによる変異が広がる初期過程をキャッチできる。
  3. この初期変化は、Aβ蓄積より早く起こる。従って、Aβの蓄積が一定レベルに達すると引き金になってTau病変が進むのではなくTau病変が先にあって、その過程をAβの蓄積や老化が修飾する。例えばAβ蓄積が進んだ人でLC密度が異常の場合、広範なTau蓄積が見られ、多様な認知機能が傷害される。

ほかにも様々なデータが示されているが、LC密度を中心にADの病態を整理してみることで、より包括的なAD理解を進め、新しい治療法も開発できることを示している。実際、青班核はノルアドレナリン神経の塊で、様々な場所に投射しており、最近では長期記憶にも関わることが知られていることから、治療標的としては面白いと素人ながらに思う。

ディスカッションを読んでみると、動物で青班核にリン酸化Tauを注入する実験が行われており、ここからTauの変成が脳の様々な場所に伝播することが示されているらしい。だとすると、青班核の病理研究は、50歳で半分の人がすでにAD予備軍となっていることを示しており、なぜ半分だけなのか、また何が伝搬の引き金になるのかなど、面白い課題が山積みだ。いずれにせよ、青班核からADを見るのは複雑なAD病理を理解するための頭の整理になった。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月24日 ポリネシア民族の形成過程(9月22日 Nature オンライン掲載論文)

2021年9月24日
SNSシェア

南太平洋の島々には、いわゆるポリネシア人が分布しており、紀元800年前後にサモアから、カヌー一つで広がったことが知られている。実際、台湾の現地人もこの系統に当たると聞くと、未知の島を求めて片道の旅に出かける勇気があったのか、陸上の歴史しか知らない私たちにとって、最も興味が引かれる点だ。

今日紹介するスタンフォード大学、コンピュータ計算科学研究所からの論文は、インフォーマティックスを用いてこの謎に迫った研究で、9月22日Natureに掲載された。タイトルは「Paths and timings of the peopling of Polynesia inferred from genomic networks(ゲノムネットワークから推論されるポリネシア人の移住経路と時期)」だ。

この研究では、計算科学の人たちとゲノム科学の人たちが、しっかりとタッグを組んで、集めた現存のポリネシア人DNA情報を必要なアプリケーションを開発しながら解析し、移住の方向性や時期を完全に特定している。

私も素人なので具体的な方法の詳細は把握していないが、1)ポリネシア以外からの様々なゲノムインプットを完全に除外して純粋なポリネシア人の標識のみを用いて、それぞれの島の人たちを比較したこと、2)島から島へと大人数が移動するはずはないので、新しい島へ移動するたびに、ゲノム多様性が低下すると想定し、急速に起こる多様性の低下を利用すること、3)共通に存在する遺伝子の長さをもとに世代計算を行うことを組み合わせて、いつ、どこからどこへ、移動が行われたのかを計算している。

結果は、これまでのアイソトープや、遺物を用いた結果とと大きく変わることはなく、最初紀元800年ごろサモアから2000キロも離れたRarotongaという島に定着した一群の人たちが、紀元1100年から移動を始め、400年をかけて、島から島へと飛び石伝いに広がって、最後はサモアから6000キロ以上離れたイースター島にまで到達しているプロセスを明らかにしている。すなわち、最初にアメリカ現地人と出会ったユーラシア人は、コロンブスではなく、ポリネシア人ということになる。

この移動を飛び石伝いと表現したが、要するに一つの島に定着した後、一定期間後にまたカヌーの旅を始め、次の島へ移動する過程が繰り返されている点で、これを可能にした文化、精神性、身体性には驚く。

おそらく手こぎのカヌーといった単純なイメージではないだろうが、水にしても食料にしても、そう多くは携行できないだろう。とすると、海の上ですべてを調達できる知恵と、それでも厳しい条件に耐えてカヌーを操作し続ける驚異の身体性、そして星を使った海洋術、さらに遠く見えない島を信じて大洋へ漕ぎ出す精神性を備えていたはずだ。この一部は、今回抽出されたポリネシア人特有の遺伝子領域からある程度解析可能かもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月23日 クリスパーを用いて細胞死を誘導できるかもしれない(9月17日号 Science 掲載論文)

2021年9月23日
SNSシェア

細菌は外部からのゲノム侵入から身を守るメカニズムとして、クリスパー免疫系を進化させたが、配列特異的に標的にタンパク質をリクルートする機能は共通だが、標的に対するアクションは極めて多様で、まだまだ配列特異的に細胞を操作するためのツールが開発できるのではと期待されている。

今日紹介するオランダ・デルフト大学からの論文はRNAを標的とするtype IIIクリスパーの中でも、メタゲノム解析から存在が示された新しいtype III-Eに注目して、コードされたタンパク質の機能を調べた研究で、9月17日号Scienceに掲載された。タイトルは「The gRAMP CRISPR-Cas effector is an RNA endonuclease complexed with a caspase-like peptidase(gRAMPクリスパー/Casの作用はカスパーゼ様ペプチダーゼがRNA分解酵素と結合している)」だ。

これまでのtype IIIクリスパーは、様々なCasユニットが独立して存在していたが、typeIII-Eでは、なんとクリスパーDNAを認識するCas1が逆転写酵素と結合しており、また標的破壊活性を持つタンパク質が、著者らがgRAMP と名づけた一つの長いペプチドにまとまって存在することがわかった。さらに、gRAMP下流にはカスパーゼ様の配列を持つTPR-CHAT分子をコードする遺伝子があり、逆転写酵素でクリスパーアレーのレパートリーを増やしながら、侵入RNAを壊し、さらにはペプチダーゼを用いて、タンパク質への働きかけが可能なクリスパーシステムが進化している可能性が考えられた。

この研究ではgRAMPを大腸菌で合成させ、精製した分子を用いて生化学的検討を行い、

  1. gRAMPはクリスパーアレーから転写されたRNAを処理してcrRNAへとプロセッシングする活性を持つ。
  2. crRNAと結合した相補的RNAを2カ所で切断するエンドヌクレアーゼ活性を持つ。
  3. 切断は標的の配列特異的で、DNAには活性がない。

を明らかにし、gRAMPが複数の機能が集まった一つの大きなタンパク質であることを明らかにする。

次に、下流にあるカスパーゼ様分子(TRP-CHAT)とgRAMPとの関係を、それぞれの分子を大腸菌に導入して調べ、

  1. crRNAと結合したgRAMPとTRP-CHATが大腸菌の中で、1:1の安定的な複合体を作っている。
  2. 標的と結合した後も、複合体は安定に維持される。
  3. 標的と結合しても、大腸菌の細胞死は誘導できない。

を明らかにしている。

結局、crRNAと標的結合により、本当にカスパーゼが活性化されたのかどうかはわからずじまいだが、これをスタートラインとして、タンパク質をも操作し、細胞死も誘導できるような新しい細胞操作システムが可能になるかもしれない。今後、クリスパーを遺伝子編集などと呼ぶのはやめた方がいいような気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月22日 私の個人的な妄想をかき立てる日本人のゲノム史(9月17日号 Science Advances 掲載論文)

2021年9月22日
SNSシェア

すでに多くのメディアにより報道されているので読んだ方も多いと思うが、日本人の起源について、これまで私が持っていた理解よりさらにドラマチックな可能性を示唆する論文が、ダブリン大学、金沢大学から共同で9月17日Science Advancesに掲載されていた。

メディアでは、現代日本人のゲノムが、南から日本に定住しその後大陸との交流なく独自に進化した縄文人、その縄文人と北東アジアから渡来した大陸人と交雑により形成された弥生人、そして東アジアから渡来した大陸人と弥生人の交雑した古墳時代人と、3種類のゲノム起源から形成されていることが報道されているが、論文を読んでみると、もっとドラマチックな歴史があるように感じたので紹介する。タイトルは「Ancient genomics reveals tripartite origins of Japanese populations(古代人ゲノムは日本人集団が3種類のゲノム起源を持っていることを明らかにした)」だ。

この研究では、これまで東大・太田さん、国立博物館・篠田さんが解読した縄文や弥生人のゲノムに加えて、新たに縄文人9人、そして何よりも解読が進んでいなかった約1300年前の古墳時代人3人のゲノムを加え、日本の先史をカバーして日本人の成立を調べている。

ただ問題は、発表された弥生人のゲノム解読カバー率が極端に低いことで、今後弥生、古墳時代人の解読を進めることの重要性を示している。

その上で解読した3時代のゲノムを比べ、以下の結論を得ている。

  1. この研究で9体の縄文人ゲノムが加わった結果、これまで限られた縄文人とアジア人の比較から考えられてきたように、東南アジア起源ゲノムを核に縄文人が形成されたと言うより、東ユーラシアに分布していた人類が日本に渡来し、その後大陸との交流なしに独自のゲノムを進化させたのが縄文人であることを示している。
  2. また、他の民族から隔離された縄文人は、急速な人口減少を経験し、おそらく1000人ぐらいの規模で生活していたことが、ゲノムの同一配列長解析から示された。
  3. ここで使われた弥生時代のゲノムは、カバレージが少ないという問題があるが、従来考えられていたような東中国より、農耕が発達していなかった北東中国のゲノムに近い。いずれにせよ、縄文人のゲノムの比率が高いことから、渡来した人たちが徐々に同化していったことを示している。
  4. そして、今回新たに加わった古墳時代人ゲノムは、私たちが弥生人がそのまま進化したという可能性を見事に打ち砕いた。まず、古墳時代人ゲノムは現代日本人ゲノムとほぼ等しい。そして、縄文人ゲノムと北東アジアが混合した弥生人ゲノムを3割強持っている。しかし、残りはそれまで日本に存在しなかった黄河流域の青銅器時代から鉄器時代のゲノムで置き換わっている。すなわち、弥生から古墳時代の間に、大きなギャップがあり、これまでとは異なる大陸人との交雑が急速に進んだことを示している。

以上が結果で、著者らは、弥生人の形成が大陸人の同化により起こったと結論した上で、古墳時代人の形成が大陸人の大規模なセツルメントにより起こったと、言葉を選んで抑制的に述べるにとどめている。

しかし、データを見た時の勝手な個人的印象を述べるとすると、まさにヤムナ民族が新しい文化と戦闘能力でヨーロッパを席巻したように、弥生時代と古墳時代の間のどこかに、大陸人による日本征服がおこったと考えても良いように思えた。それほど、弥生と古墳時代のギャップは大きい。これは私が勝手に想像しているだけだが、今後研究の最も弱い弥生ゲノムが明らかになるにつれ、この点も含めて日本人形成史が明らかになると思う。

しかし、この論文は総合的で面白かった。我が国でも考古学とゲノム学が融合した総合的な学問が進んでいることを知って、ある意味胸をなで下ろした。

この研究で使われた弥生ゲノムは、国立科学博物館の篠田さんの論文に掲載されたものだが、私が熊本大学医学部に在籍していた時、その篠田さんが、講師の国貞さんの縁で、教室のPCRを利用しに佐賀医大から来ていたのを思い出す。ほぼ35年前の話で、我が国の古代ゲノム研究事始めの一つのページではないかと思う。ようやくそれらの努力が我が国に根付いたことを実感しながら、楽しく読んだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月21日 セロトニンがガン免疫を抑制する(9月15日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年9月21日
SNSシェア

セロトニンというと、すぐに脳での働きを思い出すが、実際にほとんどのセロトニンは腸内で作られ、血中に放出されるとセロトニントランスポーターを発現している血小板に取り込まれる。脳での働きと異なり、全身でのセロトニンの機能はあまり注目されていないが、例えば胃の収縮、腸の蠕動などを刺激したり、損傷や炎症部位に集まってきた血小板から遊離されて、修復機構や炎症に関わることも知られている。

この論文を読むまで全く知らなかったが、さらに細胞内に取り込まれたセロトニンはトランスグルタミナーゼを介してヒストンの修飾に関わり、エピジェネティックな遺伝子発現調節にも関わっていることが最近注目されているようだ。

今日紹介するチューリッヒ大学からの論文は、末梢でのセロトニンがガンの増殖に関わるのではと、マウスモデルを使って調べた結果、ガンに対するキラー細胞の活性調節にセロトニンが一定の作用を持つことを明らかにした研究で、9月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Attenuation of peripheral serotonin inhibits tumor growth and enhances immune checkpoint blockade therapy in murine tumor models(末梢のセロトニンを減らすことでマウスの担ガンモデルでガンの増殖を抑えチェックポイント治療を高める)」だ。

上に述べたように、脳以外ではセロトニンはG共役受容体を介して細胞を刺激するとともに、トランスポーターを介して細胞内に取り込まれて、遺伝子発現を調節する2つの経路で働く。

この研究ではまず、末梢でのセロトニン合成ができなくなったマウスに膵臓や大腸ガンを移植しその増殖を調べると、もちろん根治はできないが、ガンの増殖がかなり押さえられることを明らかにする。これは、セロトニンがガンに直接作用している可能性も排除はできないが、調べていくとガンの周りに集まってくるCD8キラー細胞の数が、セロトニン合成が欠損したマウスでは上昇していることを発見する。

試験管内でキラー細胞をセロトニンで刺激すると、抗原特異的なキラー活性や、炎症活性が抑えられることから、セロトニンのガン抑制効果の一因は、ガンに対するキラー細胞の増殖と活性を高めることであることがわかる。

一方、ガン自体もセロトニンによりチェックポイント分子PD-L1が強く誘導させることも発見している。このメカニズムを調べると、ガンのトランスグルタミナーゼ2阻害により抑えられるので、最近注目のセロトニンによるヒストン修飾による転写の変化を反映していると結論している。

実際、データベースから多くのガン細胞のトランスグルアミナーゼ発現と、PD-L1の発現との相関を調べると、トランスグルタミナーゼのは発現が高いガンほど、PD―L1の発現が高いことを確認している。

以上の結果に基づき、トランスグルタミナーゼ阻害剤とPD-1に対する抗体を組み合わせた治療を行うと、少なくともマウス担ガンモデルでは、それぞれ単独よりは強い効果が得られることを明らかにしている。

以上が結果で、末梢のセロトニンが、一つは受容体を介してキラーT細胞に働いて増殖や機能を抑えること、またガンに取り込まれてヒストン修飾を介して、転写を変化させ、ガン免疫の感受性を高めていることがわかった。それぞれの経路については、それぞれの阻害剤も開発されつつあるので、このような薬剤をガン免疫を高めるために用いる可能性は期待できる。

個人的には、セロトニンの意外な作用を学ぶことができた論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月20日 免疫回避遺伝子を探したら、様々なガン抑制遺伝子が釣れてきた(9月17日号 Science 掲載論文)

2021年9月20日
SNSシェア

ガン治療の切り札が、免疫治療にあることがわかってから、ガンの悪性化に関わる要因として、免疫回避に関わる遺伝子群が注目されるようになった。まさに、新型コロナウイルス変異株の出現の重要な要因が、免疫回避だとするのと同じだ。このような免疫回避を助ける遺伝子を特定するために、ガンとキラー細胞を同じシャーレで培養して、キラー細胞に抵抗性を持ったガン細胞のゲノム変化を調べる多くの研究が行われ、MHC分子や、ガン抗原をMHCに提示させる過程に関わる遺伝子など、予想通りの遺伝子が見つかってきている。

今日紹介するハーバード大学からの研究は、これまで主に試験管内で行われてきたガン免疫回避に関わる遺伝子スクリーニングを、正常マウスと免疫不全マウスにガンを移植して比較する実験系で、比較する大規模系を用いて行おうとした研究で、9月17日号のScienceに掲載された。タイトルは「The adaptive immune system is a major driver of selection for tumor suppressor gene inactivation (獲得免疫システムが、ガン抑制遺伝子を不活化させる主要な原動力になっている)」だ。

専門外の人には、タイトルだけではピンとこないと思うが、ガン研究者には意表を突かれるタイトルだ。ガン抑制遺伝子は、発現するとガンの増殖を抑える働きがあるため、多くのガンでしばしば欠損が見られる遺伝子を指している。従来この作用は、ガンの増殖や転移に直接関わり、免疫系がガン抑制遺伝子欠損を促す選択圧になるとは考えてこなかった。

この研究では、マウス乳ガン細胞株、大腸ガン細胞株の遺伝子をクリスパー遺伝子編集により、ランダムにノックアウトし、これをマウスに移植、そこでよりよく増殖してくる腫瘍に起こっている遺伝子変化を比べ、正常マウス(=すなわち免疫機能が正常なマウス)で特異的にガンの増殖優位性を高める遺伝子を探している。免疫不全マウスでの結果は、免疫とは無関係の遺伝子変化と考えられるので、両者を比べることで、ガン細胞の免疫回避に関わる遺伝子を特定できると期待される。

その結果がタイトルで、驚くことに、欠損することで正常マウスでの増殖優位性が見られる遺伝子の多くが、これまでガンの増殖を抑制するとして知られるガン抑制遺伝子で、もちろん免疫不全マウスでも共通に見られる遺伝子もあるが、正常マウスでの増殖を指標とするとガン抑制遺伝子が、なんと10倍以上濃縮されるという結果だ。

濃縮されたガン抑制遺伝子の性状を分析すると、これまで知られていたガンのネオ抗原発現経路に関わる様々な遺伝子(MHCやβ2ミクログロブリン)などに加えて、1型インターフェロン発現に関わる遺伝子(Jak1など)、E3ユビキチンリガーゼのタンパク質の安定化に関わる遺伝子群(Fbxw7など)、クロマチンの調節に関わる遺伝子(PBAFなど)、そしてTGFβシグナル関連分子(Smad2など)がリストされてくる。

よく見てみると、別にガンだけでなく、免疫機能や、ガンの間質に関わる細胞の生理機能にも大きな作用が知られている分子で、これらをガン抑制遺伝子としてまとめていたことの方が不思議な気がするリストだ。

ほかにもクリスパースクリーニング系を用いて、同じような結果がほかのガンでも共通に得られるのかなど大変な実験を繰り返しているが、割愛する。ただ、ガン増殖抑制といっても、体内では複雑な過程で効果を及ぼすことを示す目的で、多くのガンで共通にリストされてきたGNA13(G蛋白質の一つ)について、ノックアウトしたガン細胞を移植し、ガンの増殖が促進される原因を詳しく調べている。

結果、GNA13が欠損すると、ガンによるCCL2ケモカインの分泌が高まり、このケモカインの作用で、腫瘍周囲に免疫を抑えるマクロファージの浸潤が上がることで、ガンの増殖が高まることを示している。

以上が結果で、ガン抑制遺伝子が免疫系で淘汰されると考えるより、ガン抑制遺伝子もいろいろで、またガンの増殖も体内では様々な調節を否が応でも受けていると考えた方がいいだろう。人騒がせなタイトルだったが、最後はもっともな結論で終わっている。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月19日 mRNAワクチンで抗体が誘導できなくても、強いキラー細胞が誘導できる(9月14日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2021年9月19日
SNSシェア

我が国では、65歳以上の人たちのワクチン接種はほぼ90%に達し、全人口比でも53%を超した。このまま接種が進んで、12歳以上の2回接種が8割を超すという状況が生まれるように思える。しかも、今回ワクチン以外に頼るすべがないことを知った政府も、早々とワクチンの3回接種を決定した。この決定に対して反対する理由はないが、このような決定がどの程度の科学的知識の上になされているのか興味がある。

3回目接種が議論された最大の理由は、ウイルスに対する抗体価が低下するという話だが、よほど遷延的な感染でもない限り、抗体は低下するのが当然だ。一方、ワクチン接種者の重症化率は、抗体低下後も低いことを考えると、キラーT細胞などの細胞性免疫の効果も正確に測定することが必要になる。これら科学的データを踏まえて、社会的にどこまでリスクをとるか、そのためにどのようなワクチンが必要になるのか、我が国独自の方針をオープンに、しかし迅速に議論してほしいものだ。

ワクチン接種による抗体とキラーT細胞の関係を、B細胞を抑える免疫治療中の患者さんで調べたのが、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文で、9月14日 Nature Medicineにオンライン掲載された。タイトルは「Cellular and humoral immune responses following SARS-CoV-2 mRNA vaccination in patients with multiple sclerosis on anti-CD20 therapy(抗CD20抗体治療中の多発性硬化症の患者でのSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後の細胞性と液性免疫)」だ。

多発性硬化症は自己免疫病で、ミエリンに対する自己抗体を抑えるためにB細胞を抑えるCD20抗体治療が行われる場合がある。すなわち、抗体ができにくい状態で、ワクチンがどのような効果があるかを調べることができる。この状況を利用して、患者さんおよび健常人20人づつ、ワクチン接種時、1回目接種後10−12日目、2回目接種時、2回目接種後10−12日後、1ヶ月後に末梢血を採取、ワクチンに対する様々な反応を徹底的に調べた研究だ。

膨大な結果なので、詳細は省くが、結果の要点は以下のようにまとめられる。

  1. CD20抗体を投与されている患者さんでは、正常に近い抗体反応を示す方もおられるが、半分以上の方で、ほとんどスパイクや受容体結合部に対する抗体ができない。
  2. 抗体産生を助け、ワクチン接種後リンパ節内の濾胞でB細胞や樹状細胞で密接な相互作用を行うCD4T細胞について、末梢血で詳しく調べると、CD20抗体でB細胞が抑えられた患者さんでは、最もB細胞との関係が深いTfh細胞の低下が見られる。
  3. スパイク分子から用意したペプチドプールによるCD4T細胞の活性化を調べると、ほとんどの患者さんで、少しは低いがほぼ正常レベルの活性化が見られる。
  4. CD20抗体治療を受けている患者さんでは、2回目のワクチン接種後に、健常人より強い活性化CD8T細胞が現れてくる。
  5. スパイク由来ペプチドプールによる活性化を調べると、平均でCD20抗体治療を受けている患者さんの方が高い活性を示す。ただ、ばらつきは大きい。
  6. CD8T細胞の活性化と、スパイクに対する抗体価の関係を調べると、抗体ができない人ではより強いCD8T細胞の活性化が見られる。一方、B細胞と相互作用するTfhは、抗体が誘導できない人では、末梢血にほとんど出てこない。

以上が結果で、B細胞が抑えられることで、抗体の誘導が低下するとともに、直接相互作用するCD4Tfhの誘導が低下する。しかし一方で、キラー細胞の方は抗体を作るB細胞が抑制されている方が、高い反応が見られるので、CD20抗体治療を受けている患者さんでも、ワクチンの効果は期待できることが示された。

さらに、濾胞反応を強く誘導するmRNAワクチンに対する反応について、まだまだわからないことが多いこともよくわかった。臨床的効果から見てワクチン慎重論になる必要はないが、希有の機会を捉えて、徹底的に科学的分析を行い、人間の免疫反応を理解し、次に備えることの重要性を、政府も理解してほしい。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月18日  ヤムナ民族の勝利の要因(9月15日 Nature オンライン掲載論文)

2021年9月18日
SNSシェア

いわゆる青銅器時代に、中央アジアのステップ地帯からヨーロッパ全体に進出して、様々な文化とともに、インド・ヨーロッパ語を伝えたヤムナ文化は、先住民族が、ヤムナ民族で置き換えられることで広がったことが、ゲノム研究からわかっている。

個人的には、言語から土器まで、優れた文化を有している民族が周辺へと進出していくのは当然と思っていたが、この優位が何によりもたらされたのかについては考古学的に議論が続いてきたようだ。民族が置き換わるわけで、基本的には先住民を支配、あるいは滅ぼしながら広がったことになるが、例えばモンゴルや、匈奴の例から、馬の家畜化と利用、牧畜主体の生活が重要な要因ではなかったかと考えられてきた。しかし、東ユーラシアでは馬の利用が紀元前1200年まで見られていないことから、証拠を示す必要があった。

今日紹介するイエナ・マックスプランク人類歴史学研究所からの論文は、タンパク質解析で、ヤムナ民族が馬のミルクを含む乳製品を常食にしていたことを明らかにし、これがヤムナ民族拡大の大きな原動力だったことを示した研究で9月15日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Dairying enabled Early Bronze Age Yamnaya steppe expansions(酪農が青銅器時代初期のヤムナ民族拡大を可能にした)」だ。

しかしこの1ヶ月でイエナ・マックスプランク研究所の論文を紹介するのが3回目になるが、考古学領域へのめざましい進出ぶりで、活動範囲がアフリカ、アジア、そしてヨーロッパと広がっているのがわかる。まさにヤムナ文化の拡大を彷彿とさせる。

この研究は、歯石の質量分析から、接種していたミルクの種類を特定することを可能にした実験手法の開発と、そして何よりも歯石に注目した着想にあると思う。

研究では中央アジアステップから出土した、新石器時代から青銅器時代の人骨から歯石を削り出し、質量分析法を用いて乳成分のタンパク質(カゼインやラクトグロブリン)が存在するか、どの動物種の乳成分かを調べ、いつから酪農がヤムナ民族に定着したかを調べている。

結果は明瞭で、新石器時代後期(BC4600-4000)のサンプルからは、一例を除いてミルク成分は全く検出できなかったが、初期青銅器時代(BC3300-2500)では、全例で主に羊、山羊、牛を中心に乳成分が検出され、最も酪農が進んでいたと考えられる領域では、馬の乳成分がはっきり検出できることを示している。

結果は以上で、牧畜という生活スタイルが、様々な文化を生み出し、これがヤムナ民族進展の大きな原動力になったという結果だが、初期青銅器時代の一部の地域ではっきりと馬の乳成分が検出されたことは、馬の家畜化がこの時代に進んでいたことを初めて示し、匈奴や蒙古のように、戦闘能力が高まったことも、拡大の要因であった可能性を示している。

ただ、ヤムナ民族のロマンより、イエナマックスプランク研究所の大躍進の方に感心した。

カテゴリ:論文ウォッチ
2024年11月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930