誕生日に際してのご報告
78歳の誕生日を迎えますが、6月15日に唾液腺ガンの手術をすることになりました。5cmは優に超える大きな腫瘤が右耳下腺にあり、リンパ節転移も認められます。医学のプロが何をしていたのかと馬鹿にされそうですが、昨年の4月から40年間付き合っていたワルチン腫の一つが徐々に大きくなってきたのに気づきました。もちろん気になって、10月MRI検査を行い、12月にはアスピレーションバイオプシーによる細胞診も行ったのですが、悪性なしで8月まで切除を待つことにしました。ところが4月中旬、急にCEAが上昇、5月に入って消化器などを全て調べるとともに、耳下腺も再検査したところ、間違いなく悪性転化でリンパ節転移と診断されました。この結果を聞いたのは先週で、そのとき手術日が6月15日になりました。
耳下腺ガンは様々なタイプがあり、手術して組織を見るまで最終的な予後はわかりません。最近の大きくなり方から、かなりアグレッシブだと覚悟しています。ただ、自分がガンになったら、これまで皆さんに伝えてきたように、ゲノムも含めて徹底的に調べようと決めており、検査や治療の可能性について多くの友人に相談し、多くのあたたかい協力の申し出を得ております。もちろん精神的には落ち込んでおりますが、このような友情に支えられて、主治医と患者だけでなく、病理やゲノム検査が統合されることで得られるデータに基づいて自分のがんを知り、納得して戦える新しい医療に貢献できたらと思っています。
今後の活動ですが、もちろんこれまで通り論文ウォッチは続けます。ただ、摘出に際して顔面神経切除・再建も覚悟する必要があり、そうでなくてもある程度顔面神経麻痺は必死なので、Zoomや講演は当分中止しますのでご理解ください。
最後になりましたが、論文ウォッチは、妻の里美の検閲を受けており、彼女の助けなしにはこの活動は不可能でしたが、これからはこれまでの何倍も助けが必要になるとおもいます。ただただ感謝の気持ちを述べて終わります。論文ウォッチはもう少しで5000回に到達します。そこまでは二人三脚で頑張ろうと話しています。今後ともよろしく。
(今日は私の78歳の誕生日ですが、これを機会に一つご報告があるので続く記事もお読みください)。
Covid感染後に続く様々な慢性症状を示す一群の疾患をLong Covid (LC) として研究が続いている。ウイルスの持続、自己免疫疾患誘導、微小血栓など様々な仮説が示されているが、どれも因果性を明確に示すまでには至っていない。そんなとき、4月にアムステルダム大学のグループから、LC患者さんの血清をマウスに移入すると、痛みの感受性が高まるLCと同じ症状を誘導出来ることを示す研究が Cell Reports Medicine に発表され、自己免疫説の可能性が示唆された(Cell Reports Medicine 7, 102693, April 21, 2026)。
今日紹介するイェール大学 岩崎さんの研究室からの論文は、同じ方向性の研究だが、より大規模に因果性を探索する方向で研究が行われている力作で、5月28日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A causal link between autoantibodies and neurological symptoms in long COVID(Long Covidの神経症状と自己抗体の因果的連鎖)」だ。
臨床研究は複雑に決まっているが、これを理解した上で複雑性をどう説きほどけばいいのか、岩崎さんの研究を見ると一つの手本が示されているといつも思う。この研究では、自己抗体が LC神経症状発症に関わるという仮説に絞って研究を行っている。そこで、LCと健常人だけを比べるのではなく、コロナ回復期の血清の3種類のグループの血清について、神経組織の染色を行い、LCの患者さんで様々な神経組織に対する自己抗体が上昇してること、中でもマウスの髄膜に対する抗体は他のグループとの差が大きいことを発見する。おもしろいのは、頭痛とマウス髄膜組織への反応性とが明確に相関することだ。
このように組織レベルで自己抗体がありそうだと確認した上で、自己免疫を調べるための抗原パネル、脳組織の免疫沈降、Gタンパク受容体を抗原としたELISAの3種類の方法を用いて、患者さんの抗体が反応する抗原についての膨大なデータを集め、3種類の方法でLC患者さんの自己抗体と反応する抗原として、グルタミン酸受容体や転写のメディエーター、そして内因性レトロウイルスなどの抗原を特定している。また、それぞれに対する自己抗体がLCと相関する確率を丹念に算出し、それに基づいて、LC診断用の抗原がリストされた新しいパネルを作成している。そして、新しい患者さんのコホートで、このパネルがLC診断に役立つことを示している。あの膨大なデータが科学的なだれもが使える検査に仕上がるのはさすがと言える。
以上の結果は、何か一つの抗原に対する反応がLCを誘導するのではなく、LCでは様々な抗原に対する抗体が集まって作用していることになる。そこで、抗原にこだわらず病気を誘導するメカニズムを調べている。まず注目したのがFcクラスで、抗体依存性の細胞傷害、さらにFc依存性の貪食反応に関わるIgクラスが、神経を傷害することが細胞レベルのメカニズムではないかと結論している。
これを確認する一つの実験として、痛みの過敏性を示すLCの血清でマウスを処理したとき、末梢の皮膚に投射する感覚神経ファイバーをモニターし、数の現象が起こるとともに、痛みへの感受性が上昇する事を明らかにしている。
また、マウスにLC患者さんの血清を注射したとき、痛みだけではなく、運動脳、認知、記憶など様々な神経機能の低下を誘導出来ることを確認した上で、各患者さんの抗体が染色する脳部位とLC患者さんの症状が相関することを示している。
大分はしょったが、LCのように複雑な要因がからむ人間の病気を、現象論から因果論まで、決して一つの小さな結論に逃げずにやり遂げたという素晴らしい論文だと思う。