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6月8日 細菌叢の発達のDNAメチル化への影響(5月18日号 Cell Press Blue 掲載論文)

2026年6月8日
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細菌叢が我々の身体に影響を及ぼすルートについて様々な研究が行われている。まず短鎖脂肪酸などの代謝物を介する作用、炎症や免疫を介する作用、細菌叢の分泌するシグナル分子による作用等などで、ますます複雑性が増している。細菌叢から出る分子により遺伝子変異が直接誘導されることも知られているが、様々なルートを介してエピジェネティックな変化を誘導する方がはるかに多く、実際、細菌叢により我々の身体に持続的変化があるとすると、それはエピジェネティックな変化に他ならない。ところがこれまで細菌叢とエピジェネティックな変化を直接扱った論文にはあまりであっていないと思う。

今日紹介する香港中文大学からの論文は、生後の細菌叢の発達と自閉症スペクトラムや注意障害の発症、そして血液のメチロームを相関させようとした研究で、細菌叢研究では珍しくエピゲノムを調べた研究。Cell Pressの新しい雑誌Cell Press Blueの5月15日号に掲載された。タイトルは「Epigenome-microbiome interplay in early life associates with infants’ neurodevelopmental outcomes(幼児期のエピゲノムと細菌叢の相互作用は幼児の神経発達と相関する)」だ。

全ゲノムレベルのメチロームを571人の子供で調べるという大変な研究である事は認めるが、今日は少し批判的に紹介していきたい。この研究で集められたのは、700人レベルの幼児の誕生直後、2、6,12ヶ月の細菌叢、及び両親の妊娠中の細菌叢データで、これについてはショットガンシークエンスによるメタゲノムを用いており、菌株レベルのしっかりした解析が行われている。また、3年目に、子供の情緒を調べるために開発されたCBCLを用いて、ASDやADHDのリスクを算定している。ここまでは十分納得できる計画で、これにより細菌叢の発達とASDやADHDの発症との関わりがわかる可能性がある。

ところがメチロームは出産時に得られる臍帯血でしか行われていない。とすると、題にあるエピゲノムと細菌叢の相互作用に関しては、バックグラウンドのデータは示せても、発達期に細菌叢でエピゲノムが変化するプロセスについては全くわからない。以前の中国からの研究にはこのタイプが多く見られたが、最近は私が読む雑誌の範囲ではこのような羊頭狗肉タイプは見かけなくなっていたが、残念だ。

それでもデータ取りはしっかりしているので、いくつか明確になったことはある。例えば、帝王切開で生まれた子供の細菌叢の発達が遅れることはわかっていたが、母親から子供への細菌叢の移行が不思議なことに遅れること、それを補うように父親からの移行が高まることなどはおもしろい。

ただ、この研究はエピゲノムと自閉症に焦点を当てており、そのために示されるデータは問題が多い。まず、臍帯血のエピゲノムと3年目で算定される自閉症のリスクスコアが相関していることについては納得できるデータで、詳細は省くが、神経炎症を含む脳神経発達に関わる遺伝子の多くのメチロームの変化が、自閉症やADHDの発症と関わっていることを示している。例を一つあげると、自閉症モデルマウスに使われるSHANK3遺伝子のメチル化度はASDリスクスコアと正の相関をしている。

問題は、この結果を細菌叢と相関させている点で、例えば L.pectinoshiza が存在すると、SLC5A4遺伝子のメチル化が低いことと相関すると述べている。相関するのだからいいと言えるが、多くの読者はメチル化と細菌叢の間に因果関係を見てしまうので、かなり問題だと思う。結局この論文で言えるのは、生まれたときのメチロームと細菌叢が合わさって自閉症リスクを高めるということだけだと思う。

一つ気になったデータは、帝王切開が原因か結果かはわからないが、多くのメチロームが変化し、そのうちの1割近くがADHDリスク遺伝子であるという事実で、今後帝王切開を考えるときに重要なデータかもしれない。

もしこの研究で情緒状態を調べるときに採血してメチロームを調べる手間を加えておれば、本来の目的は達成できて、細菌叢のメチロームへの影響を調べた最初の重要な論文になったのではないだろうか。その意味で、どんな理由があるにせよ研究を中途半端で終えて論文にしてしまうことの問題を教えてくれるいい例だと思う。

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