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6月10日 肺ガン疫学の新しい息吹(6月4日 Cell オンライン掲載論文)

2026年6月10日
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肺ガンの疫学で重要な位置を占めるのが、喫煙や大気汚染の影響だ。ほとんどの場合肺ガンが発生する気管や肺胞上皮細胞への直接効果、例えばゲノム変異誘発やエピゲノムへの影響が調べられることが多いが、これらの要因によりガンの微小環境としての肺の状態変化も誘導される。即ち肺ガンの疫学の目的は、このような複雑な要因の中から、核となるプロセスを探し、最終的に肺ガン発生へのメカニズムを明らかにすることと言える。

今日紹介する英国 Cancer Research UK クリック研究所、及びオーストラリア WHI 研究所からの論文は、疫学から動物実験までが統合された肺ガンの新しい疫学研究の息吹が感じられる研究で、6月4日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Plasma signals of lung tumor promotion for molecular cancer prevention(発ガンを促進する血清中のシグナルの特定からガンの分子予防を考える)」だ。

研究ではまずUKバイオバンクの血清タンパク質解析データから肺ガン発生と相関するタンパク質14種類を、データを機械学習させたモデルからリストし、14種類全てを総合することでかなり高い確率で肺ガンの発生を予測できることを明らかにしている。機械学習を駆使した新しい疫学の例と言える。

次に、これらの14種類のタンパク質が発現している細胞を調べると、ほとんどがAT2や気管の分泌細胞に発現しており、3種類は白血球や線維芽細胞で発現していることがわかった。また、肺ガンの発生後のこれらタンパク質の挙動を調べると、ガンの進展とは無関係に発現が見られ、ガン切除後も発現が見られることから、ガンマーカーというより、発ガンを支持する環境を反映していることが考えられる。

そこで、マウス気管の様々な細胞にEGFRを発現させて誘導する腺ガンの発ガン実験系で、肺ガンと環境の関係を調べると、気管細胞も含めどの細胞にEGFRを発現させても、肺胞にガンが発生することを発見する。気管特異的にガンを誘導してどうして肺胞でガンが発生するのかを追跡すると、気管からEGFR発現細胞が肺胞へ移動したときに初めて発ガンが起こることを発見する。即ち、発ガンを誘導した前駆細胞が、肺胞内の環境の支持を得て初めてガンへと進展することを明らかにした。

では環境因子を反映する14種類のタンパク質はどのように誘導されるのか?細胞レベルの実験からPMとして知られる微小粒子物質などの大気汚染物質に細胞がさらされたときに誘導されるIL-1βにより肺で誘導されることを明らかにしている。そして、マウスをPMに暴露したとき、実際にIL-1βとともに14種類のタンパク質の血清中の濃度が上昇することを確認している。

以上の結果は、PMや喫煙などの暴露により、肺で誘導されるIL-1βによる自然炎症が、肺ガンリスク因子タンパク質を誘導するとともに、そうして用意された環境が、ガンの前駆細胞を支持してガン細胞へと発展させるというシナリオを示している。この研究のハイライトで、まさに疫学研究としてのアイデンティティーを感じさせるのが最後の実験で、マウスなどでの実験ではなく、動脈硬化を防ぐ目的で行われたIL-1β投与治験の対象者を、肺ガン発生と14種類のタンパク質という新しい観点で見直すことで、このシナリオを検証している。

まず、14種類のタンパク質から、肺ガンリスクを算定し、がんリスクが高いグループでIL-1β抑制による肺ガン発生の抑制を調べると、5年追跡ではっきりとIL-1βに対する抗体治療の効果が見られることを示している。一方、14種類のタンパク質の濃度からリスクが低いと判定されたグループでは、抗体投与の効果は全くない。

他にもマウスを用いたIL-1β抑制実験も行ってはいるが、割愛していいだろう。まさに疫学から初めて疫学に終わりながらも、途中で動物実験や細胞実験を会わせて、肺ガン発生のリスク算定、大気汚染の肺ガン誘導メカニズム、そしてその予防まで示した論文で、本当に感動した。

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