食事を、見ながら嗅いで、ゆっくり味わいながら食べるほうが、ただ栄養として飲み込んで摂取するより身体にいいことがわかっている。これは、食べ物が視覚や嗅覚、そして味覚を通して脳を刺激し、これが消化吸収後にグルコース濃度が上がってインシュリン分泌が誘導されるより前に、迷走神経を介してインシュリンを分泌させ、代謝を前もって調節しているからと考えられている。この過程に、自然炎症の親玉、IL1β が関わることが最近示されている。
今日紹介するバーゼル大学からの論文は、食べ物の脳への刺激が IL1β を介してインシュリン分泌を誘導するメカニズムを明らかにした研究で7月5日号 Cell Metabolism に掲載された。タイトルは「The cephalic phase of insulin release is modulated by IL-1b(脳を介するインシュリン刺激はIL1βにより調節される)」だ。
この研究では IL1β が脳で働いて、迷走神経を介してインシュリン分泌を刺激するという仮説に基づいて研究を行っている。そこで、まず IL1β を低い濃度で腹腔および脳に注射する実験を行い、腹腔注射では影響がない濃度でも、脳に IL1β を注射するとインシュリン分泌が誘導されることを明らかにする。
次に空腹にしたマウスに餌を与え、最初の一口でマウスを採血、インシュリンを測定すると、食事は全く入っていないのに、インシュリンが分泌される。このとき、IL1β シグナルを抑える薬剤を前もって投与すると、インシュリン分泌が抑えられる。即ち、食べ物の脳への刺激がインシュリン分泌を誘導するには、脳内で IL-1β が分泌されることが必須だ。
この発見がこの研究のハイライトで、あとは
- 白血球で IL1β をノックアウトしても、脳の刺激によるインシュリン分泌は影響ないこと、このマウスと比べると、脳のミクログリアで最も強く IL1β 分泌が傷害されるようにしたマウスでは、脳刺激によるインシュリン分泌が起こらない。すなわち、ミクログリアが脳内の IL1β の源である。
- おそらく視覚や嗅覚などの刺激によりすぐに IL1β がミクログリアから分泌されると、視床の傍脳室核を刺激し、この刺激が迷走神経を介して膵臓でインシュリン分泌を誘導する。
- 肥満になると、IL1β のレベルが元々高まってしまって、脳刺激による IL1β の効果が消失しており、この結果食事前のインシュリンによるコンディショニングが起こらず、肥満をさらに悪化させることになる。
以上が主な結果で、IL1β が迷走神経を刺激するメカニズム、食べ物の刺激でミクログリアの IL1β が分泌されるメカニズムなど、肝心なところがまだわからない。しかし、IL1β が脳と膵臓をつなぐという結果は重要だ。と言うのも、IL1β は自然免疫のエフェクターの親玉で、肥満、糖尿病、動脈硬化、そして老化などに関わることがわかっている。これが脳の食への感受性を鈍化させるとすると、最終的に肥満では楽しんで食べていないのではと思える。私のような食べることの好きな老人には今後も注目の領域だ。