7月23日 膵臓ガンが分泌する異常なコラーゲン(7月21日 Cancer Cell オンライン掲載論文)
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7月23日 膵臓ガンが分泌する異常なコラーゲン(7月21日 Cancer Cell オンライン掲載論文)

2022年7月23日
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膵臓ガンでは多くの場合、強い間質反応を伴って、線維芽細胞の増殖とともにコラーゲンの多いマトリックスで囲まれており、これが膵臓ガンの治療を難しくしている元凶の一つではないかと考えられている。

今日紹介するテキサス・MDアンダーソン ガンセンターからの論文は、膵臓ガンが通常では存在しない α1 コラーゲンだけからで来ているコラーゲンを分泌することが膵臓ガンの悪性度を高めているという、予想外の可能性を示した研究で7月21日 Cancer Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Oncogenic collagen I homotrimers from cancer cells bind to a3b1 integrin and impact tumor microbiome and immunity to promote pancreatic cancer(ガン細胞が分泌する腫瘍誘導性コラーゲンα1ホモ3量体はインテグリン α3β1 と結合し膵臓ガンの腫瘍内細菌叢や免疫を変化させ膵臓ガンの増殖を助ける)」だ。

コラーゲンはその構成成分の違いから30種類近く同定されているが、最も多い1型コラーゲンは、Col1α 12本と、Col1α 21本がねじり合って出来ている。膵臓ガン組織では、コラーゲンは基本的に間質細胞により分泌され、このグループは、間質由来のコラーゲンの分泌が膵臓ガンの進展を遅らせてくれていることを示してきた。

おそらくその過程で、膵臓ガンによるコラーゲン分泌も調べることになり、Col1α2 の発現が、DNAメチル化により抑えられていることを見つける。すなわち、膵臓ガン細胞はコラーゲンを合成するが、正常組織には全く見られない Col1α1 のホモ3量体だけが合成されることがわかった。

そこで、遺伝子操作で膵臓ガンを発生させる系で、ガンの Col1α1 をノックアウトすると、膵臓ガンの発生が遅れ、マウスの生存期間も延長することがわかった。すなわち、膵臓ガンが分泌する、通常には存在しない Col1α1 ホモ3量体は、膵臓ガンの発生と増殖を促進していることがわかった。

まず試験管内で細胞を培養すると、ガン細胞そのものの増殖が Col1α1 で促進される。そこで、Col1α1 のシグナルを受けるメカニズムを調べると、Col1α1ホモ三量体が、コラーゲン受容体の一つDDR1と、インテグリン α3β1 を介して細胞内に持続的な増殖シグナルを誘導し、増殖が高まることを確認している。ただ、ノックダウンの実験から、最終的に Col1α1nと結合して増殖を高めているのはインテグリン α3β1 で有ることを確認している。

この結果が実際の膵臓ガンでも見られるのか、膵臓ガン組織が手に入るコホート研究で調べると、α3インテグリンの高いガンでは予後が著しく悪いことを突き止めている。

これに加えて、Col1α1ホモ三量体がガン自体の増殖に限らず、免疫を抑制してガンを助ける可能性についても調べ、Col1α1 が分泌されると、T細胞がガン組織に入りにくくなり、逆に顆粒球系の細胞がリクルートされ、ガン免疫が低下すること、そしてガンの細菌叢も変化して、インターフェロン1を誘導する細菌が抑えられる結果、Col1α1 分泌が膵臓ガンを抑えるという結果を示している。

結果は以上だが、いろんな実験結果を脈絡なく示されている点で少しわかりにくい。例えば DDR1 がリン酸化したと言っても、ノックダウンで機能がないとわかれば、軽く触れる程度でいいのに、結構詳しく述べていたり、主要内細菌叢についても、唐突に出てくると混乱してしまった。しかし、通常存在しない Col1α1ホモ3量体の機能を膵臓ガンに結びつけた点は大変面白い研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ