7月31日 脳に見られる体細胞突然変異の徹底解析(7月29日号 Science 掲載論文)
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7月31日 脳に見られる体細胞突然変異の徹底解析(7月29日号 Science 掲載論文)

2022年7月31日
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成熟してからの脳では増殖細胞は多くないので、これまであまり突然変異の解析はされてこなかった。しかし、DNAシークエンスパワーが高まって、頻度の低い変異を発見できるようになってからは、体細胞突然変異の探索が行われ、自閉症や統合失調症の発症に、新たに生じた(de novo)の変異が大きな役割を演じていることがわかってきた。

今日紹介する米国メイヨークリニックを中心とした多施設共同論文は、44例の神経学的健常人、19例のトゥーレット症候群(チックを主症状とする神経疾患)、9例の統合失調症、そして59例の自閉症スペクトラムの死後脳から、皮質、線条体、海馬組織を採取、これを200カバレージ以上繰り返し配列を読み、脳で起こる変異の包括的カタログ作成を目指した研究で、7月29日 Science に掲載された。タイトルは「Analysis of somatic mutations in 131 human brains reveals aging-associated hypermutability(131人の脳で見られる体細胞変異の解析により老化に伴う突然変異上昇が明らかになった)」だ。

131人で少なくとも3カ所の脳領域について徹底的にシークエンスを行った研究で、シークエンスパワーが飛躍的に上昇し、100ドルゲノムが実現した現在なら可能といえば可能なのだが、それでも元々頻度の高くない突然変異を特定するのは高いレベルの情報処理能力が必要とされる。このような基礎臨床一体となったチーム研究ができることがゲノム時代の研究力で、我が国でも点検が必要な分野だと思う

研究の詳細は省いて、結論だけを箇条書きにする。

  • このレベルの deep sequencing では、1−10%の頻度の体細胞突然変異を特定できる。こうして発見される変異は、一人の脳あたり、20−60個にのぼる。
  • この研究では、突然変異がシークエンスミスでないかを single cell RNA sequencing を用いて調べており、7−8割の変異が sing cell RNA sequencing で確認できている。
  • タイトルにもあるように、この研究の最大の発見は高齢者では、時に1000近くの変異が起こる可能性が示されたことだ。しかも、この変異の上昇は、変異を持った細胞のクローン増殖の結果であることが確認された。一つの可能性は、年齢とともに変性、グリア反応と言った変化が起こり、クローン増殖が起こる可能性だ。他にも、発生期に起こる変異の結果、突然変異率が高くなることも考えられる。血液のクローン増殖とエージングの関係が注目されているが、まさに同じことが脳でもわかっているのかもしれない。
  • 突然変異は皮質で最も多く検出される。
  • 自閉症スペクトラムや統合失調症でも、全体の変位数は、正常脳とほとんど同じだ。ただ、機能異常を起こすことが明瞭な体細胞変異は、自閉症スペクトラムで高い。また、染色体レベルの大きな変異も、自閉症スペクトラムで高い。また、自閉症スペクトラムの変異は、ホメオボックス分子の結合部委の多型型会頻度で見られる。

もっと多くの結果が示されているのだが、個人的に面白いと思ったのは以上になる。脳の deep sequencing ではそれほど面白い結果は出ないと思いがちだが、本当は他の組織よりずっと面白いことがわかることがはっきりわかった。今後まだまだ分析される脳の数は上がっていく。楽しみが増えた。

カテゴリ:論文ウォッチ