7月18日 脱水状態を感じる脳回路(7月13日 Nature オンライン掲載論文)
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7月18日 脱水状態を感じる脳回路(7月13日 Nature オンライン掲載論文)

2022年7月18日
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以前、カロリーのない人工甘味料と、カロリーを持つショ糖の違いを感じて、最終的にショ糖を選ぶ脳回路が存在することを示した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18825)。このように、味や臭いだけではわからない栄養を直に感じるシステムは、野生動物がどの食物を選ぶのかにとって極めて重要なはずだ。

同じように、水はもっと重要かもしれない。液体だからいいというわけではない。高張液では脱水は改善されない。今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、血中の脱水状態をモニターして、どの液体を飲めばいいのか選ぶための脳回路を明らかにした研究で、7月13日 Nature にオンライン掲載された。

食物の摂取や水の摂取などの行動をドーパミン神経が支配していることは、一般の人にも広く知られている。この研究でも1日飲み水を与えなかったマウスに5分間自由に水を摂取させたときの、腹側被蓋野(VTA)ドーパミン神経(DA)の活動をまず調べている。これまで報告されているように、水を大喜びで飲んでいるときに興奮する DA の興奮が記録されるが、これ以外に水を飲んだ10分後ぐらいに興奮する DA を突き止め、これが水を腹で感じるときの脳回路ではと当たりをつけた。

このことは塩水を飲ますとわかる。喉が渇いて水にありついたという最初の興奮は塩水でも見られるが、10分後の興奮は見られない。また、飲むという行動をスキップして水を直接胃に入れたり、腹腔注射でも後の興奮は見られる。一方、高張液を注入した場合は、興奮が逆に抑制される。また、これまで栄養をとることで興奮する DA とは別の集団であることも確認している。以上のことから、摂食行動を支配する感覚は極めて複雑で、今回特定された DA は、喉の渇きではなく、血液の水バランスを感じる回路であると結論している。

DA はご褒美回路と言われたりするエフェクター回路で、行動を直接支配する。この興奮が、脳のどの領域で働いているのかを次に調べ、扁桃体基底核外側部(BLA)が、満足感を示す舌なめずりとともに興奮することを特定している。即ち、VTA-DA から BLA 回路を通じて、より身体な脱水感覚の正常化が満足感に変化している。

次に、VTA-DA 神経興奮に関わる上流の回路を検討する目的で、摂食行動に関わることが知られている視床下部外側部(LH)の GABA ニューロン(GA)との結合に着目して、水バランスの変化による興奮を調べると、水を注入後に LH-GA が興奮することを発見する。ただ、LH-GAの興奮を誘導する実際のセンサーについては、脱水により活性化される脳球下器官が関わっていることを確認しているが、完全には特定できていない。どのように水バランスという微妙な調節なので、複雑なセンサー群があるのかもしれない。

以上、SFO、LH-GA、VTA-DA、そして BLA と水バランスを満足に変換する回路を特定した後、この回路が本当にご褒美による行動変容につながるかを、異なる臭いを嗅がした後、胃に直接水と高張液を投与して、条件化する実験を行い、最終的にマウスが水が注入される方の臭いを選ぶことを確認している。

以上が結果で、喉の渇きを一瞬癒やすことで終わらず、しっかりその後で効果の評価をして、満足中枢反応をより安全なものへと変える複雑なメカニズムの一端がよく理解できた。最近確かに暑くなってきたことも一因とは思うが、熱中症が昔より多発しているような気もする。このような無意識の身体感覚を理解することで、新しい対処法が可能になればと考える。

カテゴリ:論文ウォッチ