8月4日 マウス個体を ES 細胞から試験管内で作成する(7月28日 Cell オンライン掲載論文)
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8月4日 マウス個体を ES 細胞から試験管内で作成する(7月28日 Cell オンライン掲載論文)

2022年8月4日
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動物の個体発生で、原腸形成期は細胞の塊が個体へを変化する重要な段階で、高等動物の細胞がオーガナイズされ、Organism へと発生する過程と考えられている。従って、この段階を超える前後で個体性が発生したかどうかの境にしようとする宗教倫理もあるぐらいだ。科学的にもこの境は明瞭で、ウニですらこのステージを超えると、個体をバラバラにして細胞塊にしてしまうと、そこから個体を再構成することは難しい。

実際マウスES細胞を培養して、embryoid body を形成させて、その中で様々な細胞を分化させることは出来るが、現在行われている培養では、無秩序な細胞の塊という段階を超えることはない。これに対し、今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所、Jacob Hanna 研究室からの論文は、ES 細胞からほぼ完全な8.5日胚ができたという実感を持つ研究ではないだろうか。タイトルは「Post-Gastrulation Synthetic Embryos Generated Ex Utero from Mouse Naïve ESCs(マウスナイーブ ES 細胞から誘導した原腸形成期を超えた合成胚)」で、7月28日 Cell にオンライン掲載された。

Hanna は個人的にも知っており、Jaenisch の研究室でも常に異色の存在だったが、出来ることは間違いないが、誰もが実現できなかったことをやり遂げるというスタイルの研究者だ。その Hanna がついに ES 細胞からほぼ完全な個体を作ることに成功したというのがこの論文だ。

このような実現のための努力は、ドラマにはなっても、解説は難しい。「ついに実現した、すばらしい」という以外にない。どうして Hanna のグループが成功したかと見てみると、

  1. 未分化な ES 細胞に加えて、Cdx2 の発現による栄養外胚葉細胞、そして Gata4 の発現による原始内胚葉細胞を別々に誘導し、それを混ぜた細胞塊を培養したこと、
  2. そして、注入するガスの量などを厳密にコントロールできる回転培養器を開発したこと、
  3. そして慣れた目で正常に発生した5日胚を選び、選択したこと、

などが挙げられるが、書くのがむなしいぐらいで本当は大変だろう。

その結果、神経形成、体節形成、Yolk sac や allantois まで備えたほぼ完全な8.5日胚が形成されている。Single cell RNAsequencingで調べて、栄養膜細胞由来の細胞以外完全に存在している。この方法では、一般の胚培養と異なり、どうしても8.5日胚で発生が止まるのは、おそらくこの欠損による可能性が高い。もう一つの課題は成功率で、5日目で1回選んだ後も、完全な胚まで進むのは2%に満たないようだ。

結果は以上で、これまでほとんど不可能と思っていたことが可能になるとともに、この方法の限界も正確に述べたさすがの仕事だと思う。オープンアクセスなので、是非論文にアクセスして、示された写真を見て欲しい。

カテゴリ:論文ウォッチ