8月11日  抗がん剤を結合させた抗HER2抗体は、大きな分子量にもかかわらず、脳血管関門を通過し、乳ガンの脳転移に高い効果を示す(8月8日  Nature Medicine オンライン掲載論文)
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8月11日 抗がん剤を結合させた抗HER2抗体は、大きな分子量にもかかわらず、脳血管関門を通過し、乳ガンの脳転移に高い効果を示す(8月8日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2022年8月11日
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現在のネオアジュバント治療と手術療法を組み合わせた徹底的な治療法により、乳ガン治療の成績は格段に上昇しているが、それでも、ネオアジュバント治療以前の治療法を受けた患者さんを中心に、脳転移を含む再発例は多い。中でも脳転移では、HER2を発現しているケースでも、抗体薬のような大きな分子の透過性は悪いと考えられることから、従来のシステミックな治療は難しいと考えられていた。

最近乳ガンに関しては新しい薬剤の開発が続き、患者さんの励ましになっているが、その中でも第一三共が開発した、HER2に対する抗体にトポイソメラーゼ阻害剤(deruxtecan)を結合させ、乳ガン細胞に抗体が結合して取り込まれると、細胞内でリンカーが外れてトポイソメラーゼが細胞の増殖を阻害する抗体―薬剤結合薬(ADC)は、転移性の乳ガンに対する強い効果を示すとして世界中で利用が始まっている。ただ、効果を高めるため1分子の抗体に8分子の deruxtecan が結合している大きな構造を持つため、脳転移には効果がないのではと言われていた。

今日紹介するウィーン医科大学からの論文は、それまで HER2 抗体を含む様々な治療の効果が見られ亡くなった15人の脳転移の患者さんに、DS8201 を3週間に1回、通常治療に使われるのと同じ量(5.4mg/Kg)の治療が脳転移にも高い効果を示すことを示した第二相治験で8月8日 Nature Medicine に掲載された。タイトルは「Trastuzumab deruxtecan in HER2-positive breast cancer with brain metastases: a single-arm, phase 2 trial(Trastuzumab deruxtecanの脳転移を起こした HER2 陽性乳ガンへの効果:単一群第二相治験)」だ。

基本的には、このような大きな分子が脳血管関門を超えて脳組織に移行するとは考えにくいのだが、結果はこの予想を覆し、DS8201 が病気の進行を止める高い効果を示すという結果だ。

評価基準はシンプルで、ガンが進行したかどうかだけを評価している。従って、脳転移巣が大きくならなければ、progression free であると判断される。論文がオープンアクセスなので許されると思うので、結果をカットアンドペーストしておく。

この図は、治療によりガンがどの程度縮小したかをしらべた図で、右端の2例は完全に縮小したことを示す。また、左端の患者さんでも縮小はしていないが、ガンは大きくなっていないことを示している。

結果から予想できる、病気の進行を抑える期間は14ヶ月と計算されている。もちろん副作用も100%の患者さんで見られるが、これまでの DS8201 治療と大体同じと考えてよい。

以上が結果で、15例程度の少数例の、非無作為化試験という問題を踏まえた上でも、これまで脳血管関門を通るとして使われてきた薬剤より効果が高いのではと結論している。

おそらく乳ガン転移領域の脳血管関門が高分子を通過しやすくなっていると想像されるが、我が国で開発された薬でもあり、早期に治験を終えて、脳転移の患者さんにも利用できることを期待している。あるいは、すでに転移性乳ガンに対して認可されているので、そのまま適用を増やせばいいだけかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ