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8月6日 細胞分裂時のメカニカルストレスに対する染色体の安定性維持機構(8月3日 Nature オンライン掲載論文)

2022年8月6日
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昨日に続いて、染色体を引っ張ったり押したりする力についての研究を紹介する。と言っても、昨日のように人為的に染色体を引っ張るのではなく、この引っ張られる過程が自然に起こっている過程、即ち細胞分裂過程で、引っ張ったり押したりする力にどのように染色体が自己の構造を守るのかについて調べた研究だ。しかし、昨日の論文と同じで、一個一個の細胞についてここまでいろんな操作ができるのかと、細胞生物学のプロの世界に感心してしまった。

オーストリア分子細胞テクノロジー研究所からの論文で、8月3日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A mitotic chromatin phase transition prevents perforation by microtubules(分裂時の染色体の相転換により微小管が染色体に侵入するのが防がれる)」だ。

繰り返すが細胞生物学のプロの世界だ。細胞生物学を習った人は知っているはずだが、分裂時、染色体は凝縮し、セントロメアにあるキネトコアと結合した微小管に引っ張られることで、両方の細胞に平等に染色体が分配される。とはいっても、この引張り力にDNAが耐えるためには、染色体は凝縮した構造をとる必要がある。このために、DNAをループ状にまとめて凝縮させるコンデンシンという分子と、ヒストンの脱アセチル化によるクロマチンの凝縮が重要であることがわかっている。

この研究では、まずコンデンシンを分裂時に除去する実験系で、コンデンシンがないと染色体全体が分裂糸の形成されている領域から完全に排除されてしまうことを示している。実際、分裂糸は見事に形成されているにもかかわらず、染色体がその外側にかたまっているのがわかる。しかし、クロマチンの凝縮は維持されている。

一方、ヒストン脱アセチル化を抑制すると、やはり染色体は分裂糸からはじかれるが、この場合染色体の凝縮は完全に崩壊してしまって、染色体が細胞全体に広がっている。実際の細胞の写真を見せられると、素人の私も、この2つのメカニズムが異なる役割を演じることで、染色体が壊れることなく、分裂糸により分配されるのだとよくわかる。

以上を確認した後、この研究では、コンデンシンが除去されたとき、クロマチンの凝縮は維持されたまま、微小管を避けるかのように、分裂糸の形成面から染色体が排除されていること、そしてこの凝縮をヒストンの脱アセチル化が調節していることに注目し、凝集したクロマチンが微小管を受け付けないメカニズムをさらに探っている。

繰り返すがプロの仕事で、クロマチンの凝集維持にDNAの連続性が必要ないことを証明するため、なんと細胞内にDNAを切る制限酵素を注入し、細胞が死ぬ前に細胞の様子を観察するといった離れ業を行って、DNAが断片化しても、染色体凝縮は維持されることを示している。

後は、特に微小管と凝集した染色体の関係を調べ、ヒストン脱アセチル化により凝集した染色体が微小管を排除するのは、脱アセチル化したヒストンにより染色体全体が大きな相分離体へと転換し、可溶性のチュブリンだけでなく、重合した微小管の侵入を拒絶する構造へと変化することを突き止めている。

圧巻の実験は、ノコダゾールで分裂糸の形成を抑え、さらに染色体凝集を維持したままDNAを断片化した分裂期の細胞を作成し、急にノコダゾールを洗い流して分裂糸のを誘導すると、見事に凝集した染色体がセントロメアから伸びる微小管によってはじかれる像を示し、相分離により凝集した染色体こそが、チュブリンによる排除の原因であることを示している。

私の文章力では、到底伝えることが出来ない驚くべき細胞の像が次から次に示されている論文で、自由自在に細胞操作を行い、計画通りの結果を画像とし示す美しい研究だ。

2日間、細胞生物学の真髄とも言える仕事を紹介したが、おそらく一般の人には超難しいと思う。自分だけ興奮して、結局うまく伝えられずにごめんなさい。

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