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8月27日 炎症性腸疾患と sp140 :遺伝子多型解析から治療法開発まで(8月18日号 Cell 掲載論文)

2022年8月27日
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21世紀に入ってから、急速に病気のゲノム解析が進み、それぞれの病気について、相関する多くの遺伝子多型が特定されている。このパワーの威力については、今回 Covid-19 の様々な病態に対し、詳細な遺伝子多型マップが完成していることからわかる。ただこのような研究は、それぞれの多型、あるいは多型セットが病気につながるメカニズムを明らかに出来て初めて役に立つ。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、2010年頃から様々な免疫性炎症や、細胞内寄生に対する抵抗力の異常に関わることがわかってきた遺伝子 sp140 の作用機序を明らかにし、クローン病など炎症性腸疾患の新しい治療戦略を示した遺伝子多型から病気のメカニズム、そしてその治療まで明らかにしたお手本のような研究で、8月18日号 Cell に掲載された。タイトルは「Epigenetic reader SP140 loss of function drives Crohn’s disease due to uncontrolled macrophage topoisomerases(エピジェネティック状態を監視する sp140 の機能異常は、マクロファージのトポイソメラーゼの調節不全に起因する)」だ。

この研究が注目した sp140 は、免疫系細胞に発現すること、そして免疫性炎症の異常に関わることが知られているが、その機能はインフラマソームや自然免疫シグナルに関わる分子ではなく、H3K27me3 といった遺伝子発現を抑制するヒストンと結合する分子で、これが何故炎症のリスク遺伝子になるのかは、免疫学的にも面白い課題だ。

これを解くため HEK293 T細胞株を用いて、sp14と結合する分子をスクリーニングし、トポイソメラーゼ(TOP)1、TOP2といった DNA を緩める働きがある分子と直接結合していることを発見する。

一方で、クローン病患者さんの遺伝子多型 rs28445040 により、sp140 の機能が低下していること、また sp140 の機能が低下すると、TOP1、2の活性が高まり、転写のリプログラムだけでなく、ヘテロクロマチン領域の DNA 断裂が起こることを示している。

この過程をさらに詳しく解析し、sp140 は、遺伝子発現を抑えるヘテロクロマチンに、TOP や他のクロマチン再編成分子を寄せ付けないようにして、いったん完成したエピジェネティックな遺伝子抑制システムを維持するための重要な分子であることがわかった。また、sp140 発現レベルが低い遺伝子多型では、この防御が破れ、エピジェネティックな転写抑制が乱れることで、主にマクロファージの活性化が起こり、免疫性の炎症が起こることが示唆された。

以上の結果は、sp140 が低下して発症する免疫性炎症は、それにより活性が高まる TOP を抑制することで治療できる可能性を示唆している。そこで、sp140 をノックダウンしたマクロファージを TOP 阻害剤で処理すると、転写のプログラムが正常化し、細胞内寄生体に対する抵抗力が回復することを明らかにした。また、同じ正常化を、クローン病患者さんのマクロファージでも観察している。

最後に、硫酸デキストランで腸を傷害して誘導するマウス腸炎で、sp140ノックアウトマウスで見られる炎症の重症化を、TOP阻害剤で抑えることが出来ることも示している。

以上、人間の臨床例の研究はまだだが、病気の遺伝子多型から病気の治療法開発にまで至ったお手本と言える研究だ。いずれにせよ、慢性炎症性疾患でもゲノム解析が必須の時代はすぐそこにきている。

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