10月4日 ダニ唾液のパワー(9月27日 The Journal of Clinical Investigation オンライン掲載論文)
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10月4日 ダニ唾液のパワー(9月27日 The Journal of Clinical Investigation オンライン掲載論文)

2022年10月4日
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昨年、ダニの唾液内の19成分を抗原としてワクチンを作成すると、ダニに刺される頻度が減り、ダニも早期にその動物から退散するという論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18346)。さらについ先日、ニキビダニがホスト自然免疫システムにより生息場所を制限されていることを示した研究(https://aasj.jp/news/watch/20615)も紹介した。このように、体外にいて内部免疫系の影響を受けないと思われる害虫でも、様々な形で免疫系と相互作用しているのは面白い。

一般にダニに刺されると、かゆみを伴う炎症が起こることから、免疫を高める効果があると思うが、今日紹介するウィーン大学からの論文は、ダニの唾液が局所や全身の免疫を抑えて、スピロヘータの感染を助けることを示した研究で、9月27日 The Journal of Clinical Investigation にオンライン掲載された。タイトルは「Tick feeding modulates the human skin immune landscape to facilitate tick-borne pathogen transmission(ダニ刺されは人間の皮膚の免疫状態を変化させダニの媒介する病原菌の感染を高める)」だ。

このような虫刺されと免疫システムの相互作用の研究は、皮膚組織を調べる必要からなかなか人間では研究できないのだが、この研究の最大の特徴は、全ての実験を人間のバイオプシーサンプルを用いて行った点で、このような研究に応じる人を集めたことだけでも驚く研究だ。

人間の組織を採取するとは言え、4mmのバイオプシーなので、やれることは限られている。また、本当に再現性があるのかなど、懸念も多いが、重要な点をまとめると以下のようになる。

  1. 一人の人から、刺された皮膚と、刺されていない皮膚を採取して、免疫細胞を比べると、マクロファージや自然免疫リンパ球などが低下する一方、B細胞、T細胞が増えていることがわかる。すなわち、ダニの唾液が入ることで局所の免疫細胞の変化が起こる。また、皮膚で炎症に関わるインターフェロン、IL4、IL17 などを持つ細胞が減少する。すなわち、リンパ球は増えるが、炎症や免疫誘導が起こりにくい状態が出来ているのに驚く。
  2. 局所の免疫系が変化するのは、ダニ刺されの症状を考えると納得できるが、なんと末梢血でも好中球が増加し、T細胞、NKT細胞、NK細胞、そして自然免疫細胞が低下するという、全身の変化が起こるのは驚く。
  3. 後はこの効果を調べる実験系が必要になるが、これも腹部手術時に大きな皮膚サンプルを採取し、皮膚全体を用いた実験システムをくみ上げている。おそらくこの皮膚をダニが刺すことはないので、まずダニの唾液腺抽出液がダニ刺されと同じ効果があることを確認した後、採取皮膚組織に抽出液を注射、これにより同じ免疫系の変化が起こること、そしてそのパターンから想像されるように、ダニの媒介するスピロヘータの感染をダニの唾液腺抽出液が助けることを明らかにしている。

以上が結果で、全てを人間でやりきった点が最も大きな特徴だが、この話が正しいとすると、わざわざダニがスピロヘータを助けることになり、人間、ダニ、スピロヘータの複雑な三角関係が何故出来たのか、最終的に納得感の低い論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ