10月21日 試験管内の神経細胞ネットワークに TV ゲームをさせる(10月12日 Neuron オンライン掲載論文)
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10月21日 試験管内の神経細胞ネットワークに TV ゲームをさせる(10月12日 Neuron オンライン掲載論文)

2022年10月21日
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森美術館、前館長で、国際的現代美術キュレーターの南條さんが2019年企画した、未来的科学と深く関わり合って生まれた芸術を集めた展覧会「未来と芸術展:AI 、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるか」については、このブログで一度紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/12003)。下図には、この展覧会についての森美術館のホームページの一部とともに、私がこの展覧会で最も驚いた作品をスマフォで撮影した写真が添えてある。

  このコードがむき出しになったスピーカーのような箱では、iPS から作成した脳細胞が培養されており、それに様々な音楽をインプットするとともに、そこでの神経興奮を拾って音楽を変化させることで、培養細胞と一緒に音楽を奏でるという CellF という作品だ。

iPS も分化ではなく、文化にしてしまう芸術の力を感じたのだが、これが芸術の世界の話ではなく、科学として成立できる可能性を示す論文がオーストラリアの人工知能ベンチャーから10月12日 Neuron にオンライン掲載された。タイトルは「In vitro neurons learn and exhibit sentience when embodied in a simulated game-world(試験管内のニューロンはゲーム世界のシミュレーションと結合されると感性を示す)だ。

最初に断っておくが、実験の概要は完全に理解できるのだが、実際に PC 上のゲームを刺激としてインプットする際の処理方法などの詳細は、理解しているわけではない。

研究ではマウス胎児由来脳細胞、あるいは人間の iPS から誘導した神経細胞を、刺激しながら記録も出来るという素子の上で培養している。培養が進んで、自発興奮が始まった段階で、ビデオのポンゲーム(向かってくる球をパドルを操作して打ち返すゲーム)と結合している。

このゲームでは玉とパドルの位置がインプットになり、パドルの操作が運動になる。この研究では、センサー領域と、運動領域を少し話して設定し、センサー領域にはパドルと玉の情報が 4Hz の間隔で入るようにしてある。一方、運動領域は刺激がセンサー領域に働いて、パドルや玉の状態が変化させられるよう担っている。

といっても、ネットワークをデザインするわけではなく、この二つの領域に細胞を連続的に撒いて、自然な結合が生まれるようにしている。

その上で、ゲームとつないで神経に学習をさせるのだが、神経ネットワークから切り離したままでは、すぐにゲームは終わる。また、神経培養とつないだからと行ってすぐに変化が起こるわけではない。しかし、打ち返すのに失敗してゲームが終わったことを、ランダムな刺激をネットワーク全体に与えてストレスをかけるようにしておくと、不思議なことに運動領域がタイムリーに動き始めて、玉をうまく打ち返すようになり、ラリーが続くという実験だ。

結果は、失敗したときにセンサー部位にランダムな刺激が入るようフィードバックをかけたときだけ、徐々にラリーが続くようになることで、単純なネットワークでも、うまく学習効果をフィードバックできると自然に学習が可能になるという結果だ。また学習時の培養神経での興奮記録から、運動領域とセンサー領域の結合がより強くなり、センサー領域で多くの情報のやりとりが起こるようになっていることが示されている。

面白いのは、最初はヒト細胞の方がうまく働かないのだが、学習後はヒト細胞の方がマウス細胞より優れた学習能力を示す。

以上が主な結果で、繰り返すが細胞刺激の詳細についてはすっ飛ばしているので、興味のある人は自分で詳しい方法論を調べて欲しい。

馬鹿げている、とかたづける脳科学者も多いと思うが、こんな実験をやってみようという研究者がおり、さらにこんな研究を自由にやれるベンチャー企業が支えられていることが素晴らしいと思う。オーストラリアは人口が増え続けているそうだが、科学分野も期待できそうだ。

もう一つ、2019年に未来と芸術展を企画し、CellF をキュレートした南條さんの未来を見渡す慧眼に脱帽。

カテゴリ:論文ウォッチ