チェックポイント治療のための CTLA4 抗体が認可されたのが 2011年、PD1 抗体が認可されたのが2014年で、それから約10年が経過して、ガンによっては一般的な抗ガン剤を代換えするところまで来ている。我が国の現状は把握していないが、例えば手術後の腫瘍抑制治療としてのアジュバント治療がいくつかのガンで進められている。ただ、個人的に最も期待しているのが、手術前に治療を始めるネオアジュバント治療だ。一般的な抗ガン剤についてみると、例えば乳ガンではネオアジュバントが標準になっている。
ネオアジュバントが期待される最大の理由は、治療に対する反応を、臨床経過だけでなく、手術した腫瘍について組織学的にも調べられる点だ。これは、術後の予後の予想にも極めて大きな情報になる。
実際チェックポイント阻害抗体を用いた様々な治験が進んでいるが、今日紹介するテキサス・MDアンダーソンガンセンターからの論文は、ステージ III で切除可能なメラノーマのネオアジュバント治療に関する研究で、10月26日 Nature にオンライン掲載された。チェックポイント治療がさらに進化している点についても知ることが出来る。タイトルは「Neoadjuvant relatlimab and nivolumab in resectable melanoma(切除可能なメラノーマに対するニボルマブとリラトリマブのネオアジュバント治療)」だ。
このグループは、これまで PD1 抗体単独、あるいは PD1 抗体+CTLA4 抗体組みあわせで、ネオアジュバント治療の可能性を探っている。PD1 抗体単独では効果が弱いので、両方を組みあわせると強い効果は得られるものの、心筋炎など強い副作用のためにステロイド使用を余儀なくされ、その結果手術が最長で10週間遅れる問題を報告していた。現在では、それぞれの抗体の量を工夫して、より副作用の少ないネオアジュバント治療も開発しているが、それでも2−4割の人が副作用で手術が遅れる。
そこで、最近 PD1 と併用が進み始めた第3のチェックポイント分子 LAG3 に対する抗体の組み合わせがネオアジュバントとして使えるかを調べている。
結果は期待通りで、30人の患者さんに3回 PD1+LAG3 抗体を投与、9週目に残っている腫瘍を切除、その後も同じ量の抗体をアジュバント治療として10回続けるというプロトコルで治験を、対照群をおかずに行っている。
結果だが、ネオアジュバント治療時の副作用は治療を要するほどではなく、30例中29人が計画通り手術を受けることが出来た。残りの1人も、他の転移が判明して手術をやめたためで、副作用によるものではない。このことから、PD1+LAG3 抗体組み合わせはネオアジュバントに最適の組み合わせであるという結論になる。
後はフォローアップの期間が平均2年と短く、最終的評価は難しいが、手術可能だった29例では2年間再発や増悪が見られない率が97%と、他の治験と比べて高いと結論している。
ただ、手術後アジュバント治療を続けられたのは50%で、やはり副作用の問題は逃れられない。ただ、本当にアジュバント治療を続ける必要があるのかは重要な問題で、今後両者が比較されることで、アジュバント治療の必要性は明らかになるだろう。
PD1+LAF3 というブリストルマイヤーの組み合わせの宣伝を Nature が行っている印象まであるが、免疫の複雑性を考えると、一つの抗体にとどまらず、最適の組み合わせを考える会社だけが成功していくことを示す例になると思う。いずれにせよ、患者側としては、100点の免疫治療を早く開発して欲しい。