3月4日 ヨーロッパホモサピエンス民族形成史(3月1日 Nature オンライン掲載論文)
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3月4日 ヨーロッパホモサピエンス民族形成史(3月1日 Nature オンライン掲載論文)

2023年3月4日

ヨーロッパにホモサピエンスが定住する様になったのは4万5千年ほど前になるが、これまでの石器など出土物の特徴研究でオーリニャック文化、グラベット文化、マッダレナ文化といった具合に分類されてきた。そして、古代ゲノム研究が可能になり、今は様々な場所から出土するゲノム研究から、これまで知られている文化と、ゲノムに基づく民族交流の歴史を対応させる作業が行われている。特に、オーリニャック文化からマッダレナ文化までには、最後の氷河期が存在しており、これをどうホモサピエンスが生き延びたのかも重要なテーマになる。

今日紹介するチュービンゲン大学と、マックスプランク人類進化研究所を中心とする様々なヨーロッパの研究機関からの論文は、4万年以降のグラベット文化からマッダレナ文化とそれに続くヨーロッパ狩猟採取民形成までの歴史を、356体のゲノムから解析した研究で、3月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Palaeogenomics of Upper Palaeolithic to Neolithic European hunter-gatherers(後期旧石器時代から新石器時代までのヨーロッパ狩猟採取民の古代ゲノム研究)」だ。

おそらく、オーリニャック文化と言われてもほとんどご存じないと思うが、論文では文化だけでなく、多くの固有名詞が出てくるので、フォローするのが実際には大変だ。そこを徹底的にはしょって結論や面白いと思った点を箇条書きにする。

  1. 実は、4万年以上前のホモサピエンスゲノムはネアンデルタール人との交雑はなく、またネアンデルタール人と同じで、4万年以前に滅んでしまった様で、それ以降のゲノムとほとんど関連が認められない。従って、その後のグラベット文化を担った人類がどこから来たのかが問題になる。
  2. この研究では新しく解析したゲノムも含めてグラベット文化のゲノムを解析、新しく分類した Fournolクラスターが、オーリニャック文化の人々と最も近いこと、また文化的にはグラベットと分類できても、ゲノム的には極めて多様であること、そして東から西へと民族が移動していったことがわかる。
  3. 最後の氷河期の間に生息していた民族は Fournolクラスターの人々で、それ以外のグラベット文化人は絶滅したと考えられる。
  4. 氷河期が終わり、暖かい気候が始まると、後グラベット文化が始まるが、おそらくこの人達は、氷河期を生き延び北東イタリーの人々に起因しており、グラベット期と比べるとゲノムの多様性が著しく低く、限られた人口からヨーロッパや南イタリアへと拡がったと考えられる。
  5. この結果マッダレナ文化がヨーロッパ全土に拡がる。従って、この文化は、基本的には Fournolクラスターの限られた人達由来と考えられる。
  6. 現ヨーロッパ人のゲノムは、アナトリアやヤムナと言った東からの民族ゲノムに対し、西狩猟採取民、東狩猟採取民のゲノムが合わさっていることは何度も紹介しているが、この過程は Oberkasselクラスターと Sidelkinoクラスターの交雑により形成されること、そしてこの時の民族移動は、西から東に行われた。
  7. この Oberkasselクラスターは目は青いが、色が黒く、Sidelkinoクラスターは色は白いが目は黒いのが特徴だと知ると、青い目と白い肌が分離していて面白い。

このようにゲノムが文化と重ねられ、歴史が明らかになるのは面白い。

我が国にホモサピエンスが上陸したのが、3万2千年前の山下遺跡とされているが、おそらくヨーロッパと同じような氷河期を乗り越える歴史があったはずだ。その後マッダレーナ文化と同じ時代に縄文が始まることを考えると、我が国ホモサピエンス史での氷河期の影響についても是非知りたい気になる。

カテゴリ:論文ウォッチ