3月8日 様々な動物での突然変異の起こりやすさ(3月1日 Nature オンライン掲載論文)
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3月8日 様々な動物での突然変異の起こりやすさ(3月1日 Nature オンライン掲載論文)

2023年3月8日
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ダーウィン進化論は、世界(生命)の理解に初めてアルゴリズムを導入したと考えているが、偶然による多様化(この時はDNA情報などといった概念は存在しなかった)と、選択(環境の同化といっていいのかも知れない)の組み合わせで、最初の単純な生命からこれほどの多様性が生まれたことを説明したことに驚く。

しかし、この偶然による多様化はDNA情報が生まれてから現在まで同じなのか?勿論、化学的性質としては同じだろうが、DNA情報が置かれている状況により、当然違いが生まれるはずだ。今日紹介するデンマーク・コペンハーゲン大学からの論文は、なんと68種類の脊髄動物について生殖系列の突然変異の頻度を調べた論文で、3月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Evolution of the germline mutation rate across vertebrates(生殖系列突然変異頻度の脊髄動物内での進化)」だ。

生殖系列突然変異は、親から子へと遺伝する変異を意味し、従って親の生殖細胞が形成される過程で生まれる。ただ、難しく考えなくても、親子の体細胞をとってきてゲノムを比べれば、ほぼ生殖系列変異をリストできると考えてもらえる。この研究では従って、68種類の脊髄動物の親子のゲノムを採取して、親に存在せず、子供だけに存在する変異の中で、生殖系列由来と考えられる頻度の変異をリストしている。

実験自体は簡単で、今までなぜこのような研究が行われなかったのが不思議な気がするが、しかし親子であることを確かめた68種類の脊髄動物を集めることは簡単ではないと想像する。結果をまとめると以下の様になる。

  1. 突然変異の頻度は、種によって大きな多様性があり、はっきりとした傾向を見つけるのは難しいが、一般的に変異が大きい種は、は虫類や鳥類に多く、調べた全脊髄動物中でトップにたったのが、ダーウィンの名を冠した、ダーウィンレアと呼ばれる鳥類だったのは、因縁めいて面白い。
  2. 生殖細胞の形成を考えると当然だが、生殖時の親の年齢と突然変異頻度は比例する。基本的には生殖細胞系列の分裂回数と比例すると考えて良い。
  3. 同じように、精子と卵子の形成のされ方から、一般的にオスの方が変異頻度が高い。例えば、多くの精子を常に用意しているスズメやペンギンではオスの変異頻度がメスの数倍に達する。一方、卵子の数の多い鳥類やは虫類では、オスメスの差が減る。
  4. 変異頻度と、進化による遺伝子の変化の確率はほぼ比例しており、ゲノム情報の多様化が進化の駆動力であることがわかる。
  5. 突然変異頻度は、様々な生活スタイルに左右される。例えば成熟までの時間がかかるほど、変異数は高まるし、子供の数が多いほど、変異数が低くなる。
  6. はっきりとした理由はわからないが、家畜化されると一般的に一年間に生殖細胞で起こる変異頻度が高まる。

以上が結果で、ともかくやってみて結果が出ることが重要で、後の理屈づけはこれからの問題だろう。

カテゴリ:論文ウォッチ