生物由来の様々な抗菌ペプチドが存在し、バクテリアや真菌類の細胞膜を破壊し、あるいはアジュバントとして免疫機能を高めることが知られている。中には、人間の蛋白質が処理されて合成されるペプチドも知られており、臨床応用が期待されるが、実際には応用まで進んでいるペプチドはほとんどない。
今日紹介するクリーブランドクリニックからの論文は、細胞骨格分子とサイトケラチン6が分解されて出来る2種類の抗菌ペプチドが目薬として臨床応用する可能性を示した研究で、3月8日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Simultaneous control of infection and inflammation with keratin-derived antibacterial peptides targeting TLRs and co-receptors(ケラチン由来抗菌ペプチドは感染をコントロールするとともにTLRとその共受容体に働いて炎症も抑える)」だ。
このグループはサイトケラチン6aがユビキチン化され分解されたときに出来る10アミノ酸からなるKAMP10及びこの前後に4アミノ酸ずつがつながったKAMP18が、緑膿菌や黄色ブドウ球菌に対する抗菌ペプチドとして働いていることについて研究してきた。そして、この作用を細菌感染による角膜炎の治療のための目薬として使えないか調べてきた。
そして、試験管内で安全性を確かめる培養実験を行う中で、両ペプチドが自然炎症を抑える活性を持つことに気づく。特に白血球をLPSで刺激したときに様々な炎症性サイトカインの分泌を強く抑制するが、例えば2重鎖RNAなどで誘導される炎症には効果がない。
この結果は、KAMPが細菌を殺すだけでなく、細菌成分による炎症も抑えるという一石二鳥の作用を持つことを示し、細菌を処理しても炎症により角膜混濁が起こってしまう角膜炎にとっては重要な発見になる。そこで、この病気にしぼって目薬の開発が可能か調べている。
まずメカニズムだが、LPSなどの細菌成分に反応するTLR2やTLR4の共受容体として働くMD2分子と結合し、TLR2/4の活性化を抑える。また、これらTLRの細胞内取り込みを促し、細胞表面での細菌成分に対する反応性を抑えていることを明らかにしている。
その後マウスモデルを用いた前臨床実験に移り、
- LPSや熱殺菌した細菌を使ってマウス角膜の炎症を誘導する実験系にKAMPを点眼すると、炎症を抑えることが出来る。
- KAMPで前処理をしたマウス角膜に緑膿菌や黄色ブドウ球菌を感染させると、細菌感染を抑えるだけでなく、白血球の神事順による炎症による角膜混濁を完全に抑えることが出来る。この効果は。同じ殺菌効果を持つが炎症を抑えることが出来ない他の抗菌ペプチドでは得られない。
- 細菌を感染させてからKAMPを点眼する、より臨床に近い状況でも白血球の浸潤をつよく抑え、角膜混濁を防ぐことが出来る。
以上が結果で、意地の悪い見方をすると、抗生物質とステロイドを会わせた治療と変わることはない。しかし、抗生物質耐性の菌にも効果があること、自然免疫の初期過程を抑える点などから、臨床応用へ進む可能性は高いと思う。