糖鎖修飾については、重要であることはわかっていても、何種類もの糖添加酵素が順番に働いて、タンパク質に複雑な糖鎖構造をつけていくこと、そしてマンノース中心の修飾と様々な糖が参加した複合型の修飾など、酵素の働き方によって異なるタイプの修飾ができてしまうことぐらいしか知らない。
今日紹介するポルトガルのポルト大学からの論文は、自己免疫病では糖鎖修飾の異常が生じた結果、複合型の修飾がマンノース型優勢に変わった結果、これを認識するγδT細胞が炎症を増強することを示した論文で、3月15日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Host-derived mannose glycans trigger a pathogenic γδ T cell/IL-17a axis in autoimmunity(ホスト由来のマンノースグリカンはγδT細胞のIL-17a分泌を介して自己免疫経路の引き金を引く)」だ。
このグループは、SLEなど自己免疫病で、原因はわからないが糖鎖修飾が変化し、細胞表面にマンノースグリカンの割合が増加することを見出していた。この研究では、この修飾の変化が自己免疫病を増悪させる原因になる可能性を追及している。
まずループス腎炎の組織を調べると、マンノースグリカンの発現が上昇しており、これに応じてαβT細胞ではなく、通常はほとんど存在しないγδT細胞細胞の浸潤が見られることを発見する。この像から、γδT細胞がマンノースグリカン結合生の受容体を発現し、これがγδT細胞を刺激、炎症を誘導しているのではないかと着想し、試験管内でγδT細胞の刺激実験を行い、これを確認する。すなわち、γδT細胞の抗原特異性とは関係なく、たまたま発現しているマンノースグリカンを認識するDC-SIGN受容体を介して刺激され、IL-17aを分泌するというシナリオだ。
つぎに糖鎖修飾の変化自体の効果を調べるため、糖鎖修飾が成熟せず、マンノースグリカン優勢の修飾でとまる、糖添加酵素モノアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼが欠損したマウスを調べると、15ヶ月目でなんと6割のマウスが自己抗体を伴うSLE様の自己免疫病を発症することを発見する。すなわち、糖鎖修飾異常によりγδT細胞細胞が活性化し、炎症が持続すると完全な自己免疫病に発展することを示している。
この研究のハイライトは、この糖鎖成熟がうまくいかないモデルマウスの自己免疫病発症を抑える可能性を示したことだろう。同じ機能の酵素は2種類存在し、マウスにGlcNac(Nアセチルグリコサミン)を投与することで、他の経路が活性化し成熟型の糖鎖修飾が増加すること、この結果γδT細胞のマンノースグリカン受容体発現が低下すること、そしてその結果自己免疫病発症を予防できる、あるいはすでに発症したマウスの症状を抑えることができることを示している。
最後に、この戦略がヒトでも可能かどうか調べるため、ループス腎炎の組織にGlcNacを添加し培養すると、γδT細胞の数が低下し、炎症性サイトカインの分泌が低下することを示している。
以上、自己免疫現象が抗原特異的ではなく、糖鎖修飾の変化でポリークローナルに誘導されるという結果は衝撃的だ。おそらくエピジェネティックな変化が起これば、このような糖鎖修飾の変化は様々な場所で考えられる。その結果、炎症が起こり、さらにそれが引き金になって自己抗原に対する反応が誘発されるとすると、この可能性を念頭に置いて今後は考える必要があるだろう。
最後のループス腎炎組織の結果は、少し強引すぎるとは思うが、GlcNac摂取でこの可能性が軽減されることを示していることで、ホッとしたが、面白い研究だと思う。