昼夜のサイクルに会わせた概日周期を刻む体内時計のメカニズムはバクテリアにも存在する。これは、生物が地球のリズムに合わせるための必須のメカニズムで、その分子基盤もよくわかっており、真核生物の複雑な分子相互作用と比べると、極めて単純だ。
今日紹介する米国のBrandeis大学からの論文は、バクテリアの概日周期を刻む時計メカニズムの代表と言えるKaiABCシステムと呼ばれる3つの蛋白質からなる時計システムの進化を、系統構造学を駆使して探った研究で、3月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「From primordial clocks to circadian oscillators(原始型時計から概日周期への進化)」だ。
まずKaiABCシステムがどのように概日周期を刻むのかを見ておこう。基本的にはKaiC分子のリン酸化と脱リン酸化のサイクルを昼夜の周期に会わせたシステムを作ることで時計が形成される。まず、KaiCとKaiAが結合すると、KaiCの構造が変化し、KaiCの自己リン酸化が進んでいく。これが飽和するのが12時間だが、この時、KaiBがKaiCのリン酸化の程度に応じてKaiAの結合を阻害する方向に働き、今度は脱リン酸化を助ける。KaiCは12個の分子が集まっているため(12時間に合わせたわけではないと思うが)、この過程が時間をかけて進むため、3種類の分子だけで地球の自転に会わせたサイクルが完成している。
このように単純な分子から形成されているとは言え、3種類の蛋白質が最初から同時に存在するはずはない。そこで、この進化を探るため、個の分子の進化を探ってみると、まずKaiCとKaiBが30億年前に発生した後、現在のKaiAが参加するシステムが形成されるのは約10億年前までかかっている。すなわち、BC2種類の分子相互作用システムが、最終的にABC3分子システムに進化している。
そこで、まずBC2分子システムで時計機能を再構成できるのか調べる中で、20億年前に進化したKaiCrsシステムに着目した。このKaiCはABCシステムのKaiCと異なりAループと呼ばれる部位が飛び出している。またKaiCは自己リン酸可能を持つので、このRS型ループがKaiC同士を密接に結合させ、他の分子の助けなしにリン酸化を進めるのではと着想し、実験的に確かめている。すると、まさにこのRS型Aループ構造があるだけで、KaiA依存的なKaiCよりスピードの速いリン酸化が起こる。
KaiA依存システムではKaiCリン酸化が飽和するのに大体12時間ぐらいかかるのに対し、KaiCrs自身は1時間でリン酸化が飽和する。
次にリン酸化分子が時計システムを作るためには脱リン酸化が必要だが、これ自体もKaiC分子の酵素活性により起こるが、この過程はまずKaiBがKaiCに直接結合することでKaiCのATP分解活性が高まること、さらにKaiBの結合はKaiCがADPと結合しているときのみに起こることを明らかにしている。すなわち、KaiAの代わりに、細胞内のATPとADP濃度の変化により、リン酸化されたKaiCとKaiBとの結合が調節され、脱リン酸化が進むことが示されている。
少しわかりにくくなったが、要するに自己リン酸化、脱リン酸化反応をおこすKaiC単独の複合体が、概日の細胞の活動によって変化するATPとADP濃度の変化を取り込むため、KaiBを巻き込んで、単純な時計システムを完成させる。ただ、ATP/ADP濃度は温度などにも強く影響されるので、より安定な時計システムを完成させるため、リン酸化と脱リン酸化をKaiAとKaiBの競合に夜システムに変えることで、安定な概日周期が完成したというストーリーになる。
分子構造の解析が中心の論文なのにそこをすっ飛ばして紹介したが、クライオ電顕の威力が進化研究に発揮された面白い研究だった。