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8月15日 ここまで来たヒト化マウス研究:マウス肝臓をヒト細胞で置き換える(8月9日 Cell オンライン掲載論文)

2023年8月15日
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動物をヒトの細胞で置き換える研究は何十年も続けられてきた。scidマウスと呼ばれる免疫不全マウスが発見されたとき、ヒト細胞への拒絶反応が抑えられる期待で研究が加速した。その結果、ヒト血液幹細胞をマウスの中で自己再生、分化させることがかなり可能になった。ただ、ヒトと動物の壁は免疫だけではない。組織維持に必要な様々な分泌因子は、マウスの分泌因子で置き換えられない因子が多い。すなわち、目的の組織を環境ごと変化させる必要がある。これを実現するためには、膨大な努力と時間がかかる。

この難題にチャレンジしてきたのがイェール大学の Richard Flavell 率いる研究グループで、免疫不全だけでなく、自然免疫に関わるマウスサイトカインを一つづつヒト遺伝子に置き換えたマウスを作成していた。こうして出来たヒト化マウスは、ヒト免疫系の再構成に利用され、新型コロナウイルス感染を防ぐモノクローナル抗体作成にも活躍した。

今日紹介する Cell の論文は、その Flavell グループが満を持してヒト化臓器再構成に取り組み、イージーな方法をとらず一歩一歩ヒト化を可能にしてきた地道な研究が花咲いた画期的な成果で、8月9日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Humanized mouse liver reveals endothelial control of essential hepatic metabolic functions(ヒト化されたマウス肝臓は基本的な代謝を調節する血管の役割を明らかにした)」だ。

この研究では5種類のサイトカインがヒトに置き換わったマウス(Flavellマウスと呼ぶ)を肝臓の酵素欠損により生後肝臓細胞が失われる Fah(-)マウスと掛け合わせて使っている。2007年、Fah(-)マウスを免疫不全マウスと掛け合わせ、ヒト肝臓細胞を移植すると、生き残るマウスでは肝細胞がヒト化することが Grompe らにより示され、肝臓ヒト化マウスとして期待を集めた。しかしマウスとヒトの壁を完全には乗り越えられないため、人間の肝臓研究に広く用られるまでには至っていなかった。

まず Flavel x Fah(-)マウスに、ヒト胎児肝細胞からCD34(-)細胞(主に肝臓細胞)とCD34(+)細胞(血液や血管)を別々に調整し、肝臓に直接移植して3ヶ月後の肝臓を調べている。結果は期待通りで、見事に様々な肝臓構成成分がヒト細胞で置き換わる。そして、血管や血液などはほとんどCD34(+)から由来することが確認された。おそらく、ヒト化したサイトカインの働きだけでなく、再構成された様々なヒト細胞が相互作用をして、ここまで見事にヒト化が成功したと考えられる。

そこで肝細胞のソースを胎児肝ではなく成人の肝細胞に変え、胎児肝のCD34(+)細胞とともに移植すると、100%の肝細胞が成人ヒト肝細胞で置き換わる一方、血液細胞、血管内皮、星状細胞、そして驚くことに胆管細胞まで胎児肝CD34(+)細胞に由来する肝臓ができあがった。すなわち、肝細胞と、それ以外の細胞を別々に再構成できることがわかった。またこうして出来た細胞構築はほぼ完全に正常構造を持っていることも確認している。

こうしてヒト化された肝臓を持つマウスは、普通のマウスとは大きく違う。例えばマウスでは低レベルの血中LDLが、人間並みに高レベルを示す。そして、胆汁酸はマウスと異なりグリシンと結合している。このデータを見るまで、マウスもヒトも肝臓の脂肪代謝は同じかと思っていたが、その違いについて改めて勉強できる。勿論、脂肪の多い食事で脂肪肝を簡単に誘導できるし、肝臓の線維化を誘導すると人間のコラーゲンが分泌された肝硬変になる。

このように、これまで行われてきたイージーなヒト化マウスとは全く異なる新しいモデルマウスが生まれたことになるが、圧巻は血管内皮と肝臓細胞との相互作用が、ヒト肝臓のコレステロール代謝に必須であることが明らかになったことだ。

このシステムの素晴らしいのは、肝細胞とそれ以外の細胞を別々に再構成できる点だ。これを利用すると、肝細胞以外はマウス由来という動物も作れる。もしマウスの分泌因子がヒト肝細胞に働けないとすると、その機能が欠損したマウスが出来ることになる。

肝細胞以外の細胞(NPC)をヒト、あるいはマウスで再構成して比べると、ヒトNPCによってだけ肝細胞の代謝に関わる遺伝子発現、特にコレステロールなどの脂肪代謝に関わる遺伝子が大きく変化することがわかった。また、胆汁酸のヒト型の処理も、ヒトNPCが必要であることも明らかにされている。このように、ヒト細胞同士でないと再現できない機能は多い。

そして最後に、NPCのなかでも血管内皮細胞が肝細胞を刺激する主役で、驚くことに内皮が分泌するWnt2と肝細胞が発現するその受容体FDZ5が、NPCにより誘導される相互作用の全てであることを示している。すなわちヒトWnt2はマウスWnt2で置き換えられない。

まだまだ紹介したい結果はあるが、後は自分で読んで欲しい。ほぼ完全にヒト化された肝臓システムが出来ただけでなく、Flavell達がずっと強調してきた、マウスサイトカインを一つづつヒトで置き換えることの重要性が改めて示された。おそらく次は血管内皮のWnit2がヒト型に変えられた動物も作られるのではないだろうか。脂肪細胞や膵島がヒト化されれば、まさに代謝研究は違う段階に入る。

素晴らしい研究で感動した。Flavell達の研究が新しい地点に到達し、地道な努力がついに実ったことは本当にめでたい。

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