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8月26日 ミトコンドリアの数とヘテロプラスミーを決める遺伝要因(8月16日 Nature オンライン掲載論文)

2023年8月26日
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ミトコンドリアはそれ自身で独立して増殖し、遺伝形式は母親からのみ伝わる。しかし、ミトコンドリアゲノム自体には、ミトコンドリア特異的なリボゾームRNA やトランスファーRNA を含めて37個程度の遺伝子しか存在せず、その活動に必要な遺伝子の多くは、核に存在するゲノムに依存している。このホストとの複雑な関係が、ミトコンドリア異常の理解を難しくしている。

ミトコンドリアの数は細胞の様々な機能を左右するためその調節は重要だが、問題を複雑にしているのが、ミトコンドリアゲノム自体突然変異率が何十倍も高く、その結果ゲノムに変異が起こったミトコンドリアが正常ミトコンドリアと混ざって存在するヘテロプラスミーと呼ばれる状態が存在することだ。母親の生殖細胞形成時に強い選択は存在するが、それでもヘテロプラスミーは母親から遺伝子する。ところがその子供を調べると、ヘテロプラスミーの割合がまちまちで、ミトコンドリア異常による症状も、子供の間で大きく違ってしまうと言う複雑性の原因となっている。

今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は、UKバイオバンクなどに登録された30万近い人たちのゲノム解析から、血液細胞に存在するミトコンドリアの数に絞って、数の変化、ヘテロプラスミー、そしてそれを調節する核内ゲノム遺伝子について大規模な解析を行った研究で、8月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Nuclear genetic control of mtDNA copy number and heteroplasmy in humans(ミトコンドリアDNAのコピー数とヘテロプラスミーについての遺伝的調節)」だ。

短い断片を解読して集めるゲノム配列決定から、細胞あたりのミトコンドリアの数を調べることができる。この研究では、ゲノム配列データから、正常ミトコンドリアと、変異ミトコンドリアの数についてまず調べ、

  • 血液では一つの細胞に60個程度のミトコンドリアが存在するが、この数は老化とともに低下する。
  • 明らかにミトコンドリア異常と言える症状が見られるケースは、200人に一人ぐらいの割合で存在し、その多くでヘモグロビンA1c が高い糖尿病、難聴、視覚障害が見られる。したがって、この様な軽度障害を調べれば多くのミトコンドリア異常症が存在すると言える。
    • ヘテロプラスミーの存在しない人間はほぼいないといってよく、これらはミトコンドリアでの変異頻度の高さを反映している
  • ミトコンドリア変異も挿入や欠損を伴う大きな変化と、単一塩基の変化が存在するが、面白いことに挿入欠失型は母親から遺伝しているケースがほとんどである一方、単一塩基変異は遺伝しないものが多い。
  • 血液のミトコンドリア数は変化が大きいが、これを忘れると間違ったミトコンドリア異常の診断が行われてしまう。これまでミトコンドリア数の減少との相関が指摘された心臓疾患の多くは、炎症が起こったため血液細胞の構成が変化したことによる2次的変化であることがこの研究で分かった。

この様にミトコンドリアの数の変化は、同じ集団のゲノムデータで、数を決めている遺伝子と相関を求めることができる。この研究ではまずミトコンドリアの数の決定に関わる遺伝子をリストし、それぞれの分子の機能をデータサイエンス的に調べている。詳細は省くが、それぞれの遺伝子は当然ミトコンドリア異常症につながる可能性があり、重要だ。いくつかの例が挙げられているが、例えば chM:302 と呼ばれる長さが多様なミトコンドリアが半数の人に維持されるメカニズムについて説明しているが、専門的なので興味ある人はぜひ論文を読んでほしい。ヘテロプラスミーが維持される様々なメカニズムについて考察されている。

結果は以上で、ミトコンドリアの数の調節機構の重要性がよくわかる研究で、今回リストされた遺伝子について、さらに研究が進むことで、少なくとも一部のミトコンドリア異常症の治療法の衣鉢につながるかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ
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