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日本構想フォーラムの新しい企画「今若い人が考えるべきことやるべきこと」

2023年8月18日
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メンバーとして参加している日本構想フォーラム(https://nihonkosoforum.org/)は9月から、若い人との交流を深めようと、法政大学をお借りして「若い世代が今考えるべきことやるべきこと」と題して、セミナーシリーズを企画します。最初は9月2日、14時から法政大学市ヶ谷キャンパスで、メンバーの茂木健一郎さんに話題提供していただきます。既に第2回、第3回ものスケジュールも決まっており、詳細と参加申し込みは以下のサイトからお願いします。 

詳細と参加申し込みはこちらから。 https://plus.onecareer.jp/events/52

カテゴリ:セミナー情報

8月18日 デザイン化された細菌叢が誘導するT細胞レパートリー(8月16日 Nature オンライン掲載論文)

2023年8月18日
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ちょうど一月前、子供のT細胞は腸や肺で食べ物や細菌叢によって誘導されることを示した研究を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/22551)。しかし、どのT細胞受容体がどの抗原により刺激されるのかを調べることは、簡単でない。特に細菌叢となると何千もの細菌と何百万もの抗原受容体レパートリーとの相互作用を研究するなどは、不可能に近いと思える。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、この不可能へのチャレンジで、複雑な細菌叢に反応するT細胞を特定し、それを刺激している抗原まで追求した研究だ。8月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Mapping the T cell repertoire to a complex gut bacterial community(複雑な腸内細菌コミュニティーに対するT細胞レパートリーをマッピングする)」だ。筆頭著者はおそらく日本からのNagashimaさん。

この研究の背景には、以前紹介した、細菌叢をもう少し単純化したモデルに集約するための人工細菌叢デザインについての、同グループからの論文がある(https://aasj.jp/news/watch/20583)。 この論文では、デザインした細菌叢だけで、通常マウスに匹敵する免疫システムが発生していることが示されていた。

この100種類(実際には97種類と112種類の2タイプあるが、100種類とまとめてしまう)というのがミソで、これにより細菌叢全体に対する反応だけでなく、個々の細菌に対する反応を個別に調べることが可能になる。

とはいえ大変な実験で、無菌動物にデザイン細菌叢を移植、様々なタイプのT細胞が誘導されていることを確認した後、個別の細菌に対する腸内のT細胞の反応を調べ、多くの細菌に対してエフェクターTや抑制性T細胞が反応することをまず確認している。

100種類の細菌と言っても、おそらく無数のT細胞が反応していると思われる。反応している全てのT細胞抗原受容体(TcR)を特定するのは現在のところ難しいが、single cell RNA sequencingで細菌叢を移植したマウスで出現頻度の高い TcR をまず37種類選んで、その抗原反応性について調べている。強調しておくが、実験は大変で、全てのTcRをウイルスベクターに組み込み、一つづつ反応を IL2量で測定できる細胞に導入して、各TcRの個別の細菌に対する反応性を調べている。

結果だが、ほとんどのTcRが複数のバクテリアに反応し、20種類近くのバクテリアに強く反応するTcRも10種類以上特定されている。このパターンから、細菌叢から強く刺激を受けるT細胞のレパートリーは、以外と限られたセットに集約してる可能性が示唆された。

この研究の素晴らしいのは、ここで止まらず TcR が対応している抗原まで調べた点だ。最も強い反応を誘導する細菌グループのゲノム・ライブラリーを導入した大腸菌を用い、どの抗原が反応を誘導するかを探索し、最終的にバクテリアの分子取り込みシステムと結合している SBP蛋白質の、しかも限られたペプチドであることを突き止める。さらに、もう一つのグループの細菌の抗原も同じように検索し、TPRL分子を特定している。

結果は以上で、多くの TcR受容体が細菌叢により動員されると思うが、実際に強い反応を示すのは、限られた抗原ペプチドに対する TcR に収束することを示した面白い研究だ。特に少数の抗原ペプチドに、複雑な反応を収束させることが出来ると、細菌叢による免疫反応を人為的に調節するワクチンも夢ではなくなる。

デザイン細菌から、TcR、そして抗原まで、このグループの研究には今後も注目したい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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