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8月21日 食事を通して肺を感染から守るメカニズム(8月16日 Nature オンライン掲載論文)

2023年8月21日
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AHR(aryl hydrocarbon receptor)分子についてはこれまでも何回か紹介している。ダイオキシンの毒性を媒介する分子として有名だが、実際には食事や細菌叢からのインドール3をはじめとした様々なリガンドを認識して、免疫系を調整したり(https://aasj.jp/news/watch/21898)、神経活動を調整したり(https://aasj.jp/news/watch/12371)していることを紹介した。

今日紹介する英国フランシスクリック研究所からの論文は、肺へのウイルス感染に対する AHR の役割を明らかにし、感染時に AHRリガンドになる食品をとることの重要性を示唆した研究で、8月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Endothelial AHR activity prevents lung barrier disruption in viral infection(血管内皮の AHR活性化がウイルス感染による肺のバリアー破綻を防ぐ)」だ。

この研究はまず肺で AHR が発現し活動している細胞を、AHR が活性化する遺伝子に蛍光標識遺伝子を導入したレポーターマウスを用いて探索し、これまで研究されてきた血液系細胞や上皮より高い活性が血管内皮に見られることを発見する。

Cyp1 は AHR を刺激するリガンドを分解する重要な分子で、これが欠損すると AHRシグナルは長期に続く。このマウスにインフルエンザを感染させると、免疫系細胞とは異なるウイルスに対するバリアーが存在することがわかる。

このバリアーこそが AHR で刺激された血管内皮ではないかと考え、AHR を血管内皮でノックアウトしたマウスを作成し、インフルエンザを感染させると、血管内皮のバリアーが壊れ、赤血球や白血球、さらに血中蛋白質などが血管外に進出し、肺浮腫と強い炎症が起こることがわかった。予想通り、AHR は血管内皮を活性化してそのバリアー機能を高め、ウイルス感染防御を助けている。

AHR が血管バリアーを維持する分子メカニズムを調べると、血管作動性のペプチド、アペリンが機能の中心になっていることを発見する。実際、AHR の活性とアペリンの発現は平行しており、またインフルエンザ感染でアペリン投与は防御機能を高める。ただ、AHR欠損マウスでは、アペリン受容体の発現も低下するため、アペリン投与の効果が見られない。このように、血管内皮では AHR によりアペリンとその受容体の両方が上昇して、血管のバリアーを高めていることがわかる。

この研究のハイライトは、肺血管内皮での AHR活性を調整しているのが、実際には食事や腸内細菌叢から接種される AHRリガンドであることを示した実験だろう。まず AHR活性レポーターマウスを用いて調べると、インフルエンザ感染だけで AHR活性の低下が見られる。すなわちインフルエンザは肺のバリアーを AHR活性を低下させて破る。しかし AHRリガンドとして知られるインドール13 を混ぜた食事をとることで、もう一度バリアー機能を回復させることが出来る。

この結果は、ウイルス感染もおそらく食事摂取の変化を介して、肺のバリアーに働いていることを示している。従って、インフルエンザ感染時に、例えばアブラナ科の野菜を摂取する、あるいはトリプトファン代謝を変えるプロバイオをとる、さらにはインドール13を直接サプリでとる、などはウイルス抵抗性効果を高めることになる。

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